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北海道職業能力開発大学校 三浦 誠建築物は古来より風雨や外敵から身を守り,暑さ寒さを緩和するシェルター(避難所)の役割を担ってきた。それは現在も変わらないが,人間の生活様式が多様化し高度化するにつれて,室内で生活する時間は長くなり,室内の快適性が求められるようになってきた。そして,室内の温湿度の快適範囲は狭くなり,暖房機やエアコン,加湿器・除湿器,換気設備などの設備技術を活用する「アクティブな手法」が用いられるようになってきた。一方で,これらアクティブな手法は,多くの場合,化石燃料の消費により支えられているのが実情である。そこで,太陽からの日射や日照,通風などを利用する「パッシブな手法」が見直されている。これらパッシブな手法は,自然界の持つポテンシャルを活用するが,そのポテンシャルを蓄積する材料も天然素材を選択する場合が多い。パッシブな手法を志向する方は,環境配慮や健康に対する意識が高いためと推察できる。しかし,天然素材であるがゆえの不安定性や機能の限界もある。そこで,筆者らは室内環境のパッシブデザインの機能向上と持続性を確保するため,機能性ポリマーなど化学合成された材料を検討し,従来よりも省エネルギーで快適な室内環境の構築を目指している。本稿では,当大学校の共同研究で得られた成果であるポリマーデシカント材による調湿建材の開発についてと,ノルボルナジエン(NBD)誘導体の光異性化反応を用いた蓄エネルギーシステムの開発に-10-ついて紹介する。また,これらの研究は当大学校の専門課程建築科2年生の総合制作実習の課題でもあり,その実践報告でもある。2.1 背景室内の快適な湿気環境は,相対湿度が40%〜60%とされている。これよりも湿度が低い場合はインフルエンザウィルスなどの感染や呼吸器系の疾患が多くなり,高くなれば真菌類やカビなどの発生が問題となる。そこで近年,調湿建材を使用したパッシブ調湿が注目されている。これらの方法は天然素材である珪藻土に代表される無機系の多孔質材による水蒸気の物理吸着を利用した方法が主流となっている。しかし,吸放湿量には限界があり,繰り返しの吸放湿においては,履歴による放湿量の減少が報告されている。一方で天然素材よりも高い吸放湿性と繰り返しの安定性が期待できる化学吸着機構を利用した有機系調湿建材の研究例は少なく,本研究では,水蒸気を化学吸着するポリマーデシカント材を活用した調湿建材の開発を試みた1-4)。2.2 ポリマーデシカント材ポリマーデシカント材(JSR株式会社提供)を写真1に示す。水分子を化学吸着する親水性官能基を多く含み,かつ水分子と接触する比表面積の大きい粒子状の材料である。水を吸収してゲル化するポリマーとしては,紙おむつなどに使われる高吸水性1.はじめに2.ポリマーデシカント材による調湿建材の開発― ポリマーデシカント材を適用した調湿建材の開発およびノルボルナジエン(NBD)誘導体の光異性化反応を用いた蓄エネルギーシステムの研究 ―室内環境のパッシブデザインと化学

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