4/2016
11/52

<参考文献>のHEGセンサと干渉するためである。4.6 聴覚の評価聴覚実験では,作業者の聴覚が加工異常をどのように聞き分けているのか,切削音に基づいて評価した[12]。図8下をみると,切込み(Depth of cut)の増加とともに音圧レベル(Sound pressure level;L)も増加し,切込みが3mmから5mmになると,音圧変動の振幅(Fluctuation amplitude;ΔL)が急激に上昇した。このとき,中級者の88%が「異常切削状態」と判断した。この中級者は,日常の訓練において最大切込みは3mmが上限であるとの安全教育を受けており,被験者の安全に対する,および加工状態の正常/異常に対する感性基準を定量評価できることを示唆した。この実験における被験者は中級者のみだったため,熟練者との比較は実現できていない。しかし今後,フライス加工における聴覚の感性基準を示したことで,3階層モデルにおける,聴覚と自律神経系,中枢神経系との関係を議論できるようになることを期待できる。本研究を以下にまとめる。フライス加工中の被験者に対して多様な計測(自律神経系,中枢神経系,三次元動作分析,視線解析,聴覚解析,主観評価)を行い,中級者と熟練者を比較することにより,フライス加工の3階層モデルにおける3行動(スキルベース,ルールベース,知識ベース)と技能レベルとの関係を考察した。このような多様な計測と検証は,これまでの国内外の従来研究にはなく,本研究は,技能習得や技能伝承を考えるうえで,貴重な示唆を与えるものである。最後に,本研究の問題点,および今後の展望について述べる。現時点において,被験者数が不十分である。統計的検証を行って技能習得過程を定量的に実証するためには,より多くの熟練者,中級者を被験者とする測定を重ねる必要がある。そのうえで,熟練者の暗黙知を形式知化し,初級者や中級者が熟-9-[1]新村出編,広辞苑(第五版),岩波書店,1998.[2]森和夫,技術・技能伝承ハンドブック(初版第5刷), JIPMソリューション,2010.[3]森和夫,暗黙知の継承をどう進めるか,tokugikon,no.268,pp.43-49,2013.[4]森和夫,森雅夫,3時間でつくる技能伝承マニュアル,JIPMソリューション,2007.[5]J.Rasmussen, Skills, rules, and knowledge; signals, signs, and symbols, and other distinctions in human performance models. IEEE Trans. on Systems, Man, and Cybernetics, Vol.SMC-13(3), pp.257-266, 1983.[6]ラスムッセン(訳:海保博之,加藤隆,赤井真喜,田辺文也),インタフェースの認知工学,啓学出版,1990.[7]ファイファー,シャイアー(監訳:石黒章夫,小林宏,細田耕),知の創成―身体性認知科学への招待―,共立出版,2001.[8]古川勇二,他,身体性認知科学に基づくフライス加工技能の修得・伝承モデルの構築―第1報 全体構想と予測される効果,2014年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,pp.1041-1042,2014.[9]雇用・能力開発機構の廃止について,平成20年12月24日閣議決定,2008.[10] 不破輝彦,他,身体性認知科学に基づくフライス加工技能のユーザモデルと生体計測との関係,ヒューマンインタフェースシンポジウム2015 DVD-ROM論文集,pp.821-824,2015.[11] 池田知純,他,身体性認知科学に基づくフライス加工技能の修得・伝承モデルの構築―第3報 身体動作と視線動向の計測,2016年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,pp.571-572,2016.[12] M.Okabe, T.Tomiya, K.Yoshiura, M.Nakamura, Evaluation of sensibility criteria of milling workers for assessing normal or abnormal operating state based on cutting sound. Proceedings of the 2014 International Conference on Machining, Materials and Mechanical Technologies, 112, 2014.練者の域に達するための,より効率的な訓練技法の新たな開発を実現できることを期待したい。また,熟練者相互の違いを検証し,技能の“流儀”についても,定量的な検証を試みたい。謝辞本研究はJSPS科研費25289018の助成を受けたものです。ここに記して感謝します。5.おわりに

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る