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図7 静止摩擦の凝着説<引用文献><参考資料>引きずる力はせん断力と呼ばれ,単位面積あたりのせん断力をsとするととあらわされる。この力Fが凝着を断ち切って表面間にすべり運動を引き起こすのに要する最小の力ということになる。これが最大静止摩擦力と呼ばれるものである。最大静止摩擦力Fと垂直効力の比は式(6)となる。このときのμ0を静止摩擦係数と呼んでいる。ここで式(6)をよくみるとμ0が真実接触面積Aによらないということが分かる。接触面をナノスケールで観測した場合,凹凸部の分布により真実接触領域が変わるので同じ組み合わせの物体でも静止摩擦係数の値は大きく変わってしまうことになる。しかし実験的にはこのようなことは起こらない。ただし,ここで説明した摩擦の吸着説は確立したものとは言い切れない。この説を検証するためには接触圧力が垂直抗力によらず一定であることを確かめる必要がある。もしこれが一定でないとすると接触圧力に単純に真実接触面積をかければ垂直効力となるという単純な議論が破錠するからである。ここまでは平らな平面を考えていたが,物質の形状が平でなく丸い場合はころがり摩擦,ころがり抵抗などの議論が必要になる。また,表面状態がぬれているか乾いているかあるいは表面間に潤滑剤が介在しているかどうかなどによっても摩擦は変化する。また静止摩擦を中心に述べてきたが動摩擦についてこの稿では深く述べていない。-27-[1]松川宏(2002)摩擦の物理 岩波書店[2]R.A.Aziz,J.Chem.Phys.,vol.99,4518(1993)「摩擦の物理」松川宏 日本表面科学会会誌「表面科学」2003年6月号ここではミクロな原子・分子の世界とマクロな日常の世界の境目であるナノスケールの領域で見えてくる抗力と摩擦力の特徴について述べた。その中でも垂直抗力,摩擦力も起源はクーロン力であることを説明した。物体全体としては電気的に中性であっても,ミクロな構成要素どうしが押したり引いたりしあう結果,クーロン力は複雑で多彩な様相を遂げる。ゆえに摩擦の複雑さの起源はここにあるといえる。最後にミクロスケールとマクロスケールの中間(メゾスコピック)領域からこの問題について研究されることを期待している。(5)本稿は身近な力学現象として摩擦を取り上げ,自分なりに取りまとめたものであります。執筆にあたり中国職業能力開発大学校生産電子情報システム技術科の高山雅彦先生の温かい指導と助言を頂きました。ここに感謝申し上げます。(6)3.まとめ4.おわりに

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