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一方,日立は様々なタイプのコンバータ技術など日立の持てるパワーエレクトロニクスのノウハウを結集し,HTWによる運転データから洗い出された課題を解決するための新たな制御構成・方式の開発を進めている。風力発電事業への新規参入が少ない理由は,風力発電事業の立ち上げ時とその後の事業運営において,特有の事業リスクが存在するからである。風力発電所を建設する際には,長期の事業継続に適した立地確保やシステム設計に伴うリスク,事業運営においては,風車稼働率を左右する風況に合わせた設備運用に伴うリスクが存在する。風力発電事業に参入するためには,これらのリスクを最小限に軽減するための取り組みが必要不可欠となる。以下では,HTWがいかにして事業リスクを軽減させているのか,その取り組みについて,具体的に紹介する。HTWでは,事業開始前に,事業を20年間継続した時の事業収支(キャッシュ・フロー)の見通しを立て,事業実施の可否を検討している。事業開始後の資金繰り悪化のリスクを最小限にするため,この見通しは精確でなくてはならない。売上は,風況と風車の性能および稼動率により決まる。この中で,風況は,大気質変動などの外乱が多く最も不確定性が高い。HTWでは,風況シミュレーションや専門調査会社の第三者レポートを利用して,風況の変動が採算の取れる範囲内に収まることを事前に確認し,売上の見通しからの下振れを極力抑えている。一方,一般的な固定資産税,償却費,保険費,金利などのコスト積算に関しては,HCCのノウハウに基づいて検討し,風車特有の保守・運用費用はマーケティング部門の協力による市場調査を実施しながら見積を行っている。風力発電事業では,資金ショートを防ぐため,発電量予測に基づいて,BS(貸借対照表),PL(損益計算書),CF(キャッシュ・フロー計算書)を予測し,保全のタイミング・頻度を含む運転計画を財務面から判断する必要がある。そのため,風速,稼動率,発電量などの風車の稼動情報だけではなく,財務情-22-報のモニタリングも必要となる。また,売上(発電量)を高く保つため,落雷などの自然災害による事故や風況の変動による発電量の減少に対し,迅速に事業運営上の判断を下し,対処しなければならない。HCCは,従来のリース事業で培ってきたプロジェクト管理の経験から,財務情報のモニタリングシステムを既に構築していた。このシステムをベースに,日々の稼働状況を管理し,それに基づく運営状況をモニタリングできるシステムを新たに構築した。また,1日1回複数の人員でモニタリングを行い,1日ごとに運営方針を検討できる体制も整えた。風力発電事業が環境に与える影響としては,騒音,電波障害,生態系,景観への影響がある。事業開始前に,これらの影響について調査を行い,市町村と議論を重ねた上で事業を開始する。しかし,運転後に発覚する問題もあり,継続的な環境アセスメントが必要となる。この風力発電事業では,少なからず景観や騒音問題などで地元住民に影響を与える。事前に,市町村の合意を得ているとはいえ,地元住民との関係を良好に保つことは,事業リスクを軽減させる上で重要である。地元住民との関係が険悪なものとなると,事業を中断せざるを得ない状況にもなるからである。HTWでは,地元の環境イベントやお祭りに積極的に参加し,地元住民との関係を強めている。また,風車に関する地元住民の問合せ等にも自己責任で対応を図るべく,受け付け窓口を明確にし,素早く対応できるようにしている。このように,風力発電事業では,事業開始前もさることながら,事業開始後の継続的な環境アセスメントによって事業リスクを軽減している。HTWは,風力発電協会(JWPA:JapanWindPowerAssociation)に参加することで風力発電事業に必要なノウハウを取得している。風力発電協会では,風力発電事業者および風力発電に携わるメーカが活発な意見交換を行っている。HTWは,そこで専門的な事業運営のノウハウや地元住民や市町村との付き合い方など,事業立ち上げ後も運営を継続していくためのノウハウの吸収を行っている。

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