3/2016
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仮説を立てるもうひとつのメリットは,学生の主体性が高まることである。例えばエゾシカを生きたまま捕まえる方法について,ある学生が「スピーカを檻の周辺に複数設置し,ワナ遠方から近傍の順に音を鳴らすことで,エゾシカを檻に追い込んでいく」というアイデアを思いつき,具現化できるか検証した。・エゾシカを追い込むために必要な音量は?エゾシカの可聴域は?というように調査事項を列挙しリストとしてまとめ,合同会議の場で有識者に質問した。学生は自らのアイデアを実現したいという願いから自発的に上記の検証作業を行った。結果的に音で追い込むアイデアは法律上の問題で採用されなかったが,質問をつうじてエゾシカに関する周辺知識を習得できた。学生が仮説を数多く立て,図3のように有識者に対して臆することなく表明することで学生の主体性と強い精神力を涵養することができたと考える。(2)下請けスタンスと会議を見据えた計画策定地域企業や団体等と連携する際,学校側のスタンスとして受注者,すなわち下請けの立場をとった。外部協力者を依頼主ととらえ,そのニーズを満たすため,自分たちのもつ技術を提供する考え方を基本とした。合同会議の場で学校側が下請けの立場をとり先方に対して解決策を提示し続けることで,学生に価値を提供する側のスタンスを学ばせることにより,ホスピタリティの向上をねらった。また長期スケジュール計画では,2〜3ヶ月に一度の合同会議を重要なマイルストーンとして定めた。次の会議で「何を決めなくてはいけないか」「何を提案できるか」「何を進捗として示せるか」を学生と共に検討を重ね目標を設定した。学生にとっては図3 合同会議における学生による仮説提案1度となった。会議で承認が必要となる重要事項について合意形成のタイミングを逃すと最大3ヶ月待つことになりプロジェクトが停滞してしまう。合同会議における合意形成の成否がスケジュールの進捗に対して重要な鍵をにぎる。また自然環境が計画に影響を及ぼす例として「エゾシカ囲いワナ」の設営時期について述べる。ワナを運用する時期は雪で地面が覆われる冬期間である。当該年度で運用させるためには,遅くても10月末にシステムを完成させ積雪前にあたる11月のワナ設置が必然となった。非常に短期間の開発で,学生にとっては厳しいものとなったが,結果的に5ヶ月でワナを開発し予定どおり11月に運用を開始した。このようにプロジェクト進行に対して外部要因が大きく作用する。こうした外部に起因する事象は,学内でコントロールはできず困難を伴う側面がある一方で,学生の納得度が高ければ,その制約が逆に発奮するエネルギーになりうると考える。外部からの依頼に応えようとするマインドが学生メンバーの中に芽生え,自主性やグループの団結力が増すことを実感した。地域ニーズ型テーマを実施する上で,上記の特徴を踏まえ教育訓練効果を高めるために次に挙げる指導の工夫を行った。(1)できるだけ多くの仮説を立てる先方からヒアリングしたニーズを分析し,問題の解決策を複数考えて仮説として提示した。仮説を立てて提案するメリットのひとつは,活発なコミュニケーションを促すことである。前述したとおり学校側は対象(エゾシカ,オルゴール)の知識がない。そのため解決策を考えるといっても素人考えの稚拙なアイデアがほとんどになるが,その点はあまり考慮せず積極的に先方に提案した。当然の結果として専門家である外部協力者からダメ出しに近い多くの指摘を受けたが,仮説を起点として活発なコミュニケーションを引き出すことができた。意見の中には有益な情報も多くあり実践的知識を獲得できた。-16-3.指導の工夫とそのねらい

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