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昭和女子大学人間社会学部福祉社会学科 若林  功近年,雇用されている障害者数,障害者の実雇用率ともに継続的に過去最高の数値が更新されておりi,一般企業で働く障害者は増加してきている。そのような中,障害者の雇用に向けた支援施策の一つである,障害者職業訓練の重要性もますます高まってきていると言えよう。それにもかかわらず,障害者への支援の中でも,とりわけ障害者職業訓練について,一般の国民はもとより,(障害者と関わっていない)職業訓練関係者や,(労働行政等とあまり関わっていない)障害者支援関係者といった専門家に,必ずしも十分理解されているとは言えない状況にあるのではないだろうか。筆者がそのように考えるのは以下の2つの状況からである。まず,障害者職業訓練が,職業訓練という分野の中で,あまりメインストリームとして扱われているとは言い難い側面がある。例えば,職業訓練指導員となるための標準的なテキストである『職業訓練における指導の理論と実際』(職業訓練教材研究会,2012)では障害のある訓練生への支援方法について触れられてはいるものの,その記述量は決して十分とは言えないであろう。一方で,障害者の「就労支援」という用語は,主に,障害者が労働者というより福祉サービスの利用者とされ,労働関係法規が適用されていない社会福祉施策の中で扱われるか,あるいは労働施策の中でも特に公共職業安定所を初めとする職業安定に関する文脈で使用されることが多く,障害者就労支援の中の-1-一要素として含まれる障害者職業訓練制度について注目されることは,隣接分野に比べ多いとは言えない。すなわち,福祉的施策の法律である「障害者総合支援法」下での就労継続支援B型,就労移行支援といったサービスの類型や,職業安定局が所掌する法律である「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下,障害者雇用促進法)」下での障害者雇用率制度や,地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターといった,いわゆる「職業リハビリテーション制度」に焦点が当てられることが多い一方でii,特に障害者を対象とした「職業能力開発促進法」下の制度については,様々なメニューが用意されているにも拘わらず十分に目が向けられてきたとは言い難い現状にあるiii。このような状況もあり,特に一般の離職者等を専ら対象としてきた職業訓練指導員にとっても,また障害者職業訓練分野とも連携を取りながら障害者就労支援を進める専門家にとっても,障害者職業訓練の概要を把握しにくくなっている場合があると思われる。そこで本稿では,まず障害者全体の状況や障害者職業訓練を含めた障害者の就労支援の状況を概観する。次に,障害者への職業訓練はどのような体系で行われているのか概観する。その上で,それら障害者職業訓練の活動の中で,課題となっているのはどのようなことなのか検討する。このように進めることで,障害者就労支援の概要をあまりご存知ない職業訓練の専門家に加え,障害者職業訓練の概要をあまりご存知ない福祉等の関係者の理解の一助とすることを意図するものである。なお,職業訓練は人間の一生涯にわたる発達とも密接に関係する活動であり,職業能力を開発する活1. はじめに障害者職業訓練の概要と課題

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