2/2015
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デザイン作業をするCさんではなく,企業側のトライアルの機会としても,就労実習が有効である.筆者の在籍する東京中小企業家同友会1)の会員企業の紹介で女性社員ばかりのたった3名の当社に,初めて就労実習生が来たのは2010年の秋だった.受け入れた当社でまず訓練として提供できる仕事の内容は,印刷したA4の紙を名刺の大きさに切り,箱詰めする作業である.機械を使用する比較的簡単な作業で,最初は週に2回,13〜16時まで従事した.2人の実習生を受け入れ,火曜に来る人と水曜に来る人を決めた.実習生は当社に来ることで,通勤のストレスや,会社というあまり親密でない人の中で過ごす事に慣れ,実際に作業を行いながら必要なコミュニケーション力を養い(または思い出し),次の実習先へステップアップしたり,就職できたりして卒業していく.実習生を受け入れ始めたばかりの頃は,一番簡単な仕事をやってみてもらい,なかなかそれ以上に進むことはなかった.一緒に過ごす時間も短く,実習生お一人お一人との対話もあまり多くなかった.2年程過ぎた頃,別の就労支援移行事業所からも受入れることになり,今度は1か月間に渡り1人の実習生がフルタイムで来るようになった.長い時間が取れるので,取り組み易い単純作業ばかりでなく,その人の得意だと言う技能を使い,じっくりと仕事に取り組んでもらうことができた.Aさんには今まで当社で作ったが未分類になっている見積書などのデータ整理や,アンケート集計などをお願いした.集中力が高すぎるため,声をかけないと休憩なしで作業にあたるので,疲労困憊してしまうことを,就労移行支援事業所の方から聞いていたので,1時間ごとに声かけし,水分補給も促した.AさんはMOS資格を持ち,得意だと言うのでExcelを使った業務を依頼していたが,実は音楽大学出身で編曲・作曲ができる人だった.偶然,音楽関係の知り合いがセンスの良い編曲ができる人を探していたことから,そちらへアルバイトに行けることになった.-2-Bさんの場合は,最初は封入などの単純作業をやってもらったが,昼休みにぶ厚い税務の本を読んでいて,聞けば税理士資格受験生なのだという.早速,経理入力をお願いしたところ,ほぼ一人でこなすことができた.学んだ知識を実地で使い,経験を積むことができた.Cさんの場合は,当初は単純な断裁作業に従事していた.単調だが,長時間集中してスピーディにこなすことができた.他の社員より向いているため,永く担当していたが,偶然Cさんがデザインした名刺を見る機会があり,そのデザイン性の高さを知り,その後はデザイン製作部門も担当するようになった.障害,特に精神疾患を持った人に対しては,色々な事を聴くのを遠慮してしまいがちになる.余計な事を言って,気分や体調を悪くさせてしまわないように,と多くの人が思い,腫れ物に触るような対応になる.Excelが得意だ,と先に言われてしまうと,企業担当者はExcelの仕事ばかりを割り振ってしまう.こうなると実習生は,本当は経理や別の知識や能力を持っていても,「企業ではExcelが基本だ」という思い込みを愚直に守ろうとするようだ.資格や経験,実績があることで,初めて「できる」と自分から言える.無ければ言えない.就労に苦労している人は,自分に全く自信が持てないので,Bさんのように資格取得に至っていない税務知識を口に出すことができなかったのである.実務経験がないと,一歩を踏み出せない.本当は3. 就労実習生の受入れ経緯4. 色々聞かないことの弊害

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