2/2014
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障害者雇用の特殊性と職業訓練の重要性 まず,障害者の職業訓練を考える前に障害者雇用の特殊性を考えてみることにする。 特殊性の1つとして,障害者雇用は要員管理というよりも,企業は障害者雇用促進法に規定される法定雇用率達成のための雇用という動機づけが中心となっている。そのため障害のある人の積極的な活用や能力開発への関心は一般社員に比べると高いとはいえない。実際の職場においてもプラスアルファの人員として配置されたり,仕事の切り出しを行って新たな業務を作る場合などが多い。そのためか入社後に一般社員のように育成プランに基づいて教育や能力開発を行うことはまだ少ない。その分,仕事から自分の成長を感じる機会が少ないといってもよいかもしれない。 またもう1つの特殊性として,企業が必要な人材を労働の市場から調達する普通の環境が整っていない。そのため採用計画自体が立てにくくミスマッチも多い。上記の特殊性と合わせて考えると労働市場の需要と供給の間にもっとコミュニケーションがあるべきかと考えている。具体的には市場が必要とするような内容が職業訓練にフィードバックされることが理想である。そのことから障害のある人の職業訓練の重要性は高まっていると考えている。 訓練を受けても要求水準に達していない,専門技術を支える基礎的な部分が不足している,訓練内容が物足りないなど様々な課題が聞かれるが,企業では雇用率,そして支援側も就職者数などを重視するあまり,この部分に問題意識が向きにくいのではと思われる。いってもいいかもしれない。 そうやって対象者の興味や希望に沿った業務に近づいていく。キャリアカウンセリングでは職業とのアクセス(社会との関わり)において本人主体が基本である。自分の将来は自分の手の内にあるという実感こそ,職業生活においての力強さに関係している。-7-障害のある人の職業訓練について 上記の課題を踏まえて今後の障害のある人の職業訓練について考えてみたい。これまでの経験から障害のある人の職業訓練で重視するポイントして,①本人主体で進めること,②得意分野・興味分野を見つけること,③訓練内容の柔軟性,④継続した能力開発について述べる。 まず本人主体については,障害者支援の多くのしくみが当事者にとって受動的であり,進め方において最も大切な意思決定や動機づけが重視されていないことが多い。家族や支援者,ハローワークの窓口などで指示されて訓練を受講することなども多い。丁寧なキャリアカウンセリングのなかで本人が適当な情報に動機づけられ意思決定をするような進め方が求められる。 得意分野・興味分野を見つけることについては,誰しも同じであるが,自分の長所で社会に関わることができれば充実した職業生活を送ることができる。得意分野・興味分野は成長も早く職域の広がりにも関係し,付加価値の高い労働にもつながる。障害のある人の職業訓練期には特にこの要素を期待したい。 訓練内容の柔軟性については,現在の障害のある人の職業訓練において障害のある人が多様であるにもかかわらず,その内容や受講のための要件が非常に限られている。例えば一般向けの職業訓練に普通に参加できるようにしたり,サブカルチャーや研究分野,新分野など公的訓練でフォローできないような分野へも民間資源の活用して,興味関心のある職業訓練にアクセスできるようにすることが望まれる。また,訓練時間や期間,場所等を柔軟にすれば精神障害のある人の職業訓練の機会が一気に広がる。障害のある人の職業訓練の有り様は労働に付加価値をつけていく社会の力量が問われているといってもよい。 4つ目の能力開発についてであるが,職業訓練機関では基礎的な内容で本格的な職業訓練はむしろ入職後の職場で行われることが必要である。これは人事制度の課題といえるかもしれない。障害のある人を長く雇っている職場や長く続いている人を見ると障害者に対する職業訓練14.職業訓練と能力開発

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