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4.PBL教育と技術倫理置している。 教員は,成果物,プロセスについて,学生の活動を質,量の両面から客観的に評価し,教員の合議により成績を判定している。◦ 多種多様な経歴のメンバー構成 キャリアアップを目指し入学してきた,さまざまな年齢,職業,職位,経験を持つ学生でプロジェクトチームが構成されている。 互いの専門・得意分野を生かし,協力,切磋琢磨しながら学修できる環境になっている。 PBL教育の特徴について述べてきたが,工学系の高等教育機関における技術倫理教育の重要性についても,少し述べたい。 冒頭に述べたように専門職大学院には「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うこと」が求められている。一方通常の大学は「学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」と学校教育法に定められており,一義には職業人を育成することが目的とされていない。しかし,工学部,医学部,薬学部など高度専門職業人を輩出することが求められている分野も通常の大学に多く存在する。「ヒポクラテスの誓い」にみられるように医療に従事する人材に高い倫理性が求められてきたのと同様,高度専門職業人が社会で業務を遂行する際にも高い倫理性が求められるようになってきた。耐震偽装問題,コンピュータウイルス,人々の生命を脅かす可能性のある工業製品の開発など,倫理観の欠如が社会を不安定にする。技術が発展するにつれ,安全で安心して暮らせる社会を実現するためには技術者が守らなければならない基本的な素養として技術倫理についての理解が必要になってきた。 この技術倫理の教育について,やはりPBLなどの手法を導入することが有効である。技術倫理は道徳-3-ではない。ある特定の価値観を持つことを強要するものでもない。むしろ合理的な倫理判断ができるスキル・コンピテンシーを獲得させることが重要である。 例としてAIITで実施している技術倫理では,まず応用倫理学の基礎を対話的に学ぶ。討論を通じて,判断力を獲得させるのである。そして,国土交通省運輸安全委員会が公表している航空機,船舶,鉄道などの重大事故に関する報告書をテキストとして,数名の学生でチームを構成して委員会のロールプレイを実施して事故調査のプロジェクトをトレースする。その過程で事故の原因と同時に倫理問題を抽出し,討論することを通じて間違いのない判断力を獲得できるように授業を設計しているが,学生の授業評価を見る限り,PBLの手法を導入した技術倫理教育が効果を発揮していることがわかる。5.おわりに 文部科学省のホームページには『時代が求める新しいタイプの大学院 それが専門職大学院』と謳われているが,現実にはまだその存在や有用性が広く社会に知られているとは言いがたい。本稿で述べたような新しい学位プログラムのもとで専門職学位を取得した人材が活躍の場を広げ成果を出すことを通じて,専門職大学院が社会に認知されることを切に望んでいる。それこそが,高度専門職業人を育成する高等教育機関の使命である。かわた せいいち略歴工学博士(大阪大学) 産業技術大学院大学 産業技術研究科長・教授1982年 大阪大学助手,1990年東京都立大学助教授,1992年シドニー大学Visiting Scholar,2000年東京都立大学教授,2005年首都大学東京教授などを経て,2006年より産業技術大学院大学 産業技術研究科 研究科長・教授に就任公益社団法人 計測自動制御学会フェロー専門分野は,非線形システムの制御,生産システムのモデリングと最適化,強化学習など機械知能の応用,サービス工学等この人のことば

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