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1.はじめに バブル経済崩壊を機に,戦後一貫して突き進んできた経済発展の問題点が一気に噴出してきました。利益のため,生き残るためには手段を選ばない企業経営の横行。つい最近も有名ホテルのレストランでの不正が発覚しました。かつて「物金にこだわる人は意地汚い人」とさえ言っていた精神文化はどこへやら,他人を踏み台にしてでも自己利益を図る風潮の社会になりました。そのようにして大金をつかみ,六本木に住み,自家用機でも乗り回すような人が現れると,この国を動かす政治家までもが,その人を人生の英雄,成功者のように持ち上げ,若者達もそういう人生にあこがれるという実例を見ました。 このような異常な“経済発展”が崩壊し,経済が低迷を始めると日本人は皆自信をなくし,うなだれ,国中が長い閉塞感の中に落ち込んでしまいました。あの右肩上がりの経済発展に浮かれているうちに,各地で限界集落といわれる集落が多発し,国は地方から崩れ始めています。OECDが2012年5月に発表した,OECD加盟国にロシア,ブラジルを加えた36ヵ国の国民幸福度調査結果によると,1位はオーストラリア,次にアメリカ,ノルウェーが続き,この世界もうらやむ豊かさ溢れる平和国家日本は21位という信じがたい結果になっています。私のように,戦後の貧しさの中で向う三軒両隣が助け合い,支え合って仲良く生きたあの古き良き時代を知る古技能と技術 4/2013-38-い人間には,政治や教育をはじめ,社会全体が乱れてきたように感じます。つまりは国民の民度が下がってしまったということでしょう。いったい経済発展の目的は何だったのかと考えさせられるこの頃です。 私は最近,出版社の幻冬舎から強い提案を受けて「いつ倒産しても良い経営」と題する書籍を出版しました。そのなかで私は,経済発展をリードしてきたのは企業であるという認識に立てば,この社会の乱れの責任は企業にあり,企業は今こそその存在意義を見直すときだと強く主張しました。企業に働く社員は,自社利益のためだけに働く企業戦士ではなく,社会を構成する社会人です。そして,起きている時間の大部分を職場で過ごし,企業文化の影響を強く受けます。つまり“企業は最高最強の社会人教育機関”として,国民の民度に大きな影響を与えています。だから民度を向上させること,それができるのは企業ではないかと考えています。しかしながら,人がすでに身につけてしまった習慣や意識を改革するのには大変な努力と時間がかかります。したがって,この12,800万人もの国民の民度をすべからく向上させることなど不可能でしょう。 一方で私は“汚れた川を綺麗にするには,ハイテク機械をその川に投入して浄化を図っても不可能で,上流から綺麗な水を流し続けるのが一番良い”と考えています。同じ発想から,民度を向上し,この乱れた社会を綺麗にするには,学業を終わり新たに社会に出てくる若者達を,良き社会人として育てることから始める必要があると考えます。しかしい株式会社日本コンピュータ開発 相談役最高顧問高瀨 拓士若者達に伝えたい就職問題を考える

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