4/2012
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新のタワークレーンでも地上から420mが揚重の限界になる。そこで,400mまでは3機のクレーンで組立てていき,その後は第1展望台の屋上(375m)にクレーンを移動し,さらに1機を追加して計4機にする。4機のうちの2機は上へと伸ばしていき,他の2機で地上から資材を第1展望台屋上まで揚重してそこで中継することとした。このように,2機ずつペアを組んで揚重作業を行い,420m以上を建てることとした。500m以上の揚重能力を持つクレーンを開発する案もあったが,効率・安全・経済性などからリレー方式が最善であると判断した。 高所への揚重作業における最大の問題は,風の影響である。揚重には長い時間がかかり,風の影響を受けやすい形状の荷物もある。また,地表と上空では風の状況が異なり,タワーに当たった風が回り込むなど,風向や風速が急に変化することもある。 一番危険な状況は,揚重の途中で荷物が回転しはじめる現象である。そこで,タワーの周りの風をコンピュータ・シミュレーションにより解析し,荷物に対する風の影響も解析した。その結果をもとに,荷物の回転制御装置を開発した。人工衛星の姿勢を制御するのにも使用されるジャイロ効果を応用した装置である。装置内に重い円盤型のフライホイールを内蔵し,これを高速回転させると自転軸の方向を保とうとする働きが生じる。これによって荷物を安定させる。さらに,フライホイールの回転軸を傾けることで縦軸方向に回転する力を発生させ,急な風に対しても制御できる。 この装置は風への対策だけでなく,吊り上げた荷物の向きを制御して取り付け作業をしやすくすることにも使用した。微妙な角度の調整も可能で,狭い処でも部材をぴたりと据え付けることができた。 高さが大きいことは,垂直方向の精度管理がたいへん重要となる。一般的なビルの鉄骨工事では,1ヵ所に基準点を設置してレーザー計測などで高さや位置を確認・調整し,溶接を行って固定する。1段目が完了したら基準点を盛り替えて2段目を建て,これを繰り返していく。 スカイツリーでは,500mまで部材を積み上げて建てるので,何十回もの盛り替えを行うことになる。-31- したがって,わずかな誤差でも累積して大きな誤差になり兼ねない。そこで,GPSを利用した計測システムを開発し,累積誤差を確認しながら全体の精度を確保した。具体的には,タワーと離れた場所に固定した基準点を設け,タワー上の盛り替え点との2ヵ所でGPS信号を受信することで,誤差を数ミリ以下に抑えることができた。 精度管理上の難しい問題はほかにもある。鉄骨は太陽の光で暖められると伸びるので一方に傾く。また,風の影響で揺れたり,重量物の揚重によって傾くなど,タワーは常に動いている。垂直精度の管理には,これらの影響を差し引く必要がある。 タワーの日射による影響については,日中は南側が伸びて北に傾く。高さ300m地点では7cmも傾いてしまう。そして,夕方になると元に戻る。このサイクルを毎日繰り返している。こうした状態を把握し,日射の影響を差し引いた垂直精度管理を行った。 また,風については,風速・風向とGPSを連動させて計測を行った。風の強さと揺れ幅の関係を把握し,風の影響を差し引いて垂直精度を管理した。 タワーの骨格は,高強度鋼管を使用したトラス構造となっている。鋼管が複雑に交差するため,設計・製作・施工に関して,さまざまな問題があった。トラスの交点では,主管に複数の支管が集中し,そのままでは仕口が溶接できない。そこで,メインの主管にテーパーをつけて直径を大きくし,支管は直径を小さく絞って溶接できるようにした。 鋼管同士の溶接では,鋼管を直接溶接する“分岐継手”を用いた。建築ではあまり使用しない手法だが,シンプルな形状となり,埃や水がたまりにくく,錆や汚れを防ぐ効果も発揮している。 ところで,タワーの平面形状は1層ごとに変化し,すべての鋼管柱が斜めになっている。この複雑な形を正確に製作するには,従来の図面による設計・製作の手法では不十分であった。そこでコンピュータ上で精密な3次元モデルを構築し,形状・材質・強度・重量・組立方法など,さまざまな検討を行う「BIM(Building Information Modeling)」を全面的に活用した。なお,部材の形状については,重量の検討のほかにトレーラーへの積み込み状特別講演

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