3/2012
26/49

 ・国際会議参加の実績(表彰等が重要)等が最も重要な対象となる。 こうした現実とは異なり,国立大学(工学系)では大きな目標(少なくとも対外的には)として“産業・ものづくりの担い手の養成”がうたわれている。 地方大学のドクター・コースでは「高度技術者の育成」が最終目標として掲げられるのが通常である。建前では,国立大学も程度の差はあっても学部学生,修士,ドクターに至るまで,我が校と同じ“技能者”を目指しているのである。 こうした看板と現実の違いを述懐されたY教授の講演での言葉を思い出す。Y教授は非常に優れた研究をされ,若くして某学会の会長をされた逸材である。 「これまで,文部省や通産省からたくさんの資金,何十億という補助金をいただいた。工学部は産と学との融合が本質であるが,翻って見るに,自分の研究では“学”が中心であり,“産”は遥か遠くに霞んでいた」 [企業での活躍の場]と[キャリアルート] 企業でどのような仕事をこなしていくかは,卒業生が目指すキャリアルートに最も端的に表現されている。我が校では,現場技術者からリーダーへ,最終的には工場長を目指す。一方,国立大学では研究・開発に携わり,開発部門の長を目指す。 面白く思われるのはどちらのルートも最終目標が,企業経営ではないことである。この局限された目標に関しては,工学教育の立場から別の機会に書きたいと思う。ここでは,経営は文科系に任せ,技術系は製造に特化するという仕分けについて現実を述べたい。 経済産業省の「平成21年企業活動基本調査」によれば,企業における研究者の割合は100人に1人である。1000人の企業でも10人,一万人の企業でやっと100人となる。大企業の内,我が校の卒業生が就職する先を考えると,3000人クラスが最大である。そこでは約30人の研究者がいることになり,大変,現状に即しているように思われる。では,毎年の新入社員で何人が研究職につけるであろうか。従業員数を大雑把に18歳から60歳までの42年に分布していると考えると,研究者は年代ごとにほぼ0.7人が研技能と技術 3/2012-24-究者となる。すなわち,今年1人の研究職が埋まると翌年はゼロとなる。毎年75人が入るとすれば,研究者となる可能性は非常に小さい。 以前の大学時代に自分の研究室から手塩を掛けて卒業させた学生達はほぼ400人となるが,純粋に研究職に就いた者は数えるほどである。(企業からの社会人ドクター10数人を除けば,大学,研究所,工業試験場を合わせて,やはり10数人である)約380人という大半の卒業生は現場からリーダーへと成長していき,運の良い者は取締役に辿りついている。 この人数割合に加えて,昨今の企業における研究とはどんなものであろうか。バブル最盛期には企業が新製品,新技術,はては新分野への進出と研究開発に血眼になったものである。商社に至るまでが,大学に共同研究費をばらまき,何とか新技術を手に入れたいと模索した。バブルが崩壊してからは,コスト一辺倒となり,基礎研究には眼を向けなくなった。現実を見ると,超大企業(電機メーカ等)の一部には研究が残されているが,一般の企業には製品開発はあっても研究の部分はなくなっている。 あるテレビの番組を見ていると,食品メーカの研究開発の現状が特集されていた。インスタントラーメンの企業であり,研究室が総上げでやっていたのは,新しい極太麺の開発,新味噌味の開発,はては町のラーメン店主が開発したネギラーメンの味のインスタントラーメンでの再現であった。そこには最早,研究開発の面影はなく,製品開発の熾烈な競争現場であった。 我が校の卒業生が入社する企業のほとんどが,この食品目メーカと同じ戦略で生き残りをかけて戦っているのが現実である。 すなわち,国立大学(工学系)卒業生の大半も我が校の卒業生も,製品開発に集中していくことになるのであり,研究から生まれ出たアイデアを技術を駆使して現場に展開するという職務は,今や皆無と言ってよいのである。 結論としては,我が校卒業生も一般の国立大学(工学系)卒業生も全く同じように優れた技能者を目指し,工場長を目指すことになるのである。この現状を見れば,どちらの教育が有利であるかは一目瞭

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る