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力で自在に操り,製品開発や新技術の創成を行う力を指しているようである。一方,大学では「知識,理論の習得」となっているが,これは工学系大学の最終目標としては大きく間違っている。何れの大学に問いかけても,単なる「知識・理論の習得」を目指すのではなく,自ら考え,問題点を探りだし,解決する方法を確立できる能力を養うことが最終目的であると答えるであろう。すなわち,我が校も国立大学(工学系)も目指す方向は本質的に同じであり,アプローチの仕方が異なっているのである。[方法] それでは,アプローチの方法がどのように違うかを表で見ると,我が校では職業訓練(反復練習)で目標を達するとしており,国立大学(工学系)では講義と実験で行うとしている。これは余りにも短絡的な区別であり,大変な誤解を招きかねない。もし,我が校が反復練習で技能を習得させようとするなら,目的は全く達成できない。反復練習はまさに「技術」を習得する手法であり,それを更に高めて「技能」とするためには,更に自由度の高い課題を選択して解決する“教育”が必須である。 国立大学(工学系)では講義が主体であり,付随した実験・演習が行われているのも現実であるが,それで目的を達成できるとはだれも思わないであろう。 我が校では「技術」の習得を基本と考え,技術を十分身に付けたうえで,その技術を駆使して課題を解決するという方向を選択しており,国立大学(工学系)では理論を重視し,ものの本質を見極める力を身に付けたうえで,現場の課題を解決する能力を養おうとする。 上記の如く,我が校の“技術の習得”においても国立大学(工学系)の“理論の習得”においても基本が身に付くだけであり,その基本を駆使して課題を解決する能力は総合的な応用教育を徹底して行う必要がある。我が校の「総合製作・開発課題」であり,国立大学(工学系)の「卒業研究」である。 以前の職場でJABEE(日本技術者教育認定機構JABEE : Japan Accreditation Board for Engineering Education / 設立 1999年11月19日)の審査を受けたときに,学生が最も必要とする「課-23-題を探りだす能力」,「課題を解決する能力」,「創造性,独創性の養成」等はすべて「卒業研究」で養うことになり,説明に大変苦労した覚えがある。しかし,日本の大学においては,卒業研究のウェイトは非常に大きく,これが教育の集大成であり,これがなくては教育が完成しないのが現実である。 翻って我が校を見るに,国立大学(工学系)における卒業研究と全く同じ位置を占めるのが「総合製作・開発課題」である。 卒業論文でターゲットとする達成目標と総合製作・開発課題でターゲットとする達成目標の質の違いこそ,両者を分ける最大のポイントである。 すなわち,両者がどのようなテーマを選択しているかで,違いが明確にわかる。例を次に示してみよう 我が校のテーマの一例  ・農産物(特に玉ねぎ)の検査・選別機の開発 或る大学,研究室のテーマの一例  ・ 衝撃試験用試験片の切り欠き近傍の応力方向 このような違いがどこから生れるかを理解する必要がある。 我が校の教育目標は明確であり,“優れた技能者の育成”と一言で表現できる。一方,国立大学(工学系)では非常に難しい。真の目標は我が校と共通しているが,評価が異なるからである。 国立大学の評価がどういう観点でなされるかを理解するためには,大学の設立理念そのものを紐解く必要がある。大学は文化・文明の担い手であり,ヨーロッパでは戦乱の時代には破壊による知識の散逸を防ぐ大きな拠点であった。したがって,大学から送り出される学生達には時代を先導し,文明・文化を支えることが使命として課されることが何よりも大切な条件である。この精神が表に出ない形で評価の方向を定めているのである。 極端に表現すると,すべての教官はノーベル賞を目指し,それこそが最高,最終の評価である。国立大学の学生教育は教官の研究と表裏一体であり,切っても切り離せないものである。したがって,学生の評価さえも ・学術論文数を特定するシミュレーションの展開提言

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