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琉球大学 工学部 教授福本 功この人のことば 私は機械工学の材料加工学を専門に教育研究に取り組んでいますが,モノづくり教育で実践していることを紹介したいと思います。 私は地域の資源素材を活用した加工技術の開発を目標に研究を行っています。例えばサトウキビの搾りカスのバガスをプラスチックの強化繊維として用いる射出成形の研究を長年続けています。当初は,予算が十分なかった関係で,油圧ポンプとシリンダーだけを購入して,その他は全部手作りで射出成形機を独自に設計製作しました。その過程で正確に作る「精度」の重要性を学びました。さらにマシニングセンタやCAD/CAMを駆使した金型製作を通して加工技術の進化を実感しました。実際の射出成形においても金型内の樹脂流れやガス抜き,離型等を考慮した加工や研磨技術には熟練した技術職員の技能が必須です。特に複合材料の射出成形は樹脂単体に比較して粘性がきわめて高いため,成形では多くの工夫と技術が要求されますが,それを支えているのが技術職員の匠の技です。 次に,これらの研究の流れの中で,沖縄県赤瓦事業協同組合からの委託研究で瓦製作のための押出金型の設計と製作があります。まず,依頼者のイメージによるスケッチに始まり,大学でCADを用いて三次元的な具体的な図面に仕上げていく工程です。その際,形状や寸法が自由に変えられますので,依頼者のイメージを正確に具体化していきます。次は施工現場での作業を想定してのCAEでの力学的強度計算です。その後はCAMを用いてのマシニングセンターによる加工製作後,実際に瓦工場での実機へ取り付け試運転となります。これらの工程を繰り返しながら最終的な金型が決定されます。この研究で学んだことは,コンピユ-タソフトを駆使した技-1-術は確かに有効なツールではありますが,それを使いこなすためには切削加工に関する多くの知識と経験が必要ですし,また最後の段階では必ず卓越した匠の技が必要です。このような実践的な研究は大学院生,卒研学生のモチベーションを高めるのに非常に有効であり,これからの教育研究の課題としてはきわめて有効なスタイルだと思います。 ところで,現在の機械工学のJABEE教育で求められていることにデザイン能力の育成があります。それは解に至る解決方法がいくつもある課題を与えてグループで取り組み,そして改善を通して目的を達成することとなっています。そこで,材料加工学の立場からは次のことを実践しています。まず1年生に対して,精度の重要性を学ばせる目的で,次の課題を与えています。それは2枚の正方形のアクリル板を与え,それぞれを1/4切り取ってそれらを組み合わせたとき,特定箇所の寸法が許容誤差に収まるよう加工することです。ルールは使用する材料,道具と器具はすべて準備し提示しますが,教員は作業の指図は一切せず,学生が自ら考え作業することです。また作業の過程で必ず改善の工程を経ることです。ポイントは材料にプラスチックを用いていることで,金鋸,ヤスリ,エメリー紙等で簡単に加工できますが,よく考えないと削り過ぎることです。最終的にはほとんどの学生がクリアし,アンケートの結果も非常に好評です。総括ではプラモデルの話や金型の話を通して,工作機械への関心を引き出します。加工学実習では,課題として鋳造,鍛造,溶接,機械加工を指導しますが,CAD/CAMとマシニングセンタは最後の段階にあり,基礎と応用を兼ね備えた技術者養成を実践しています。また工学実験では,実際の射出成形における成形体の収縮率のこの人のことばこのの人ことば 「材料加工学から見た  モノづくり教育」

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