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3.1心身の症状について3.2指導員の立場からの検討3.3訓練生の立場からの検討する現在でも、トラウマ反応を感じないように日々の生活の立て直しに奔走している人も多いと思われる。従って、PTSDの症状がこれから現れる人がいることも十分考えられ、DPTSDについて留意する必要がある。Chaoら6)は、震災の被災者に対して早めの対応や社会資源によるサポートを行うことがDPTSDの発症を予防することを明らかにしている。震災後1年が経過したが、生活に一定のリズムができつつある今日だからこそ、心身の不調の徴候を見逃さないよう心がけたい。 以上の点をふまえ、次章では今後職業訓練時に気づき、心がけたい症状と対応について述べることとする。 災害を経験した成人には、PTSRのようなトラウマ反応と共に無意識のうちに次のような行動、認知、情動を組み合わせて対処しようと試みる。それは①これまで経験したこと、見聞きしたことを組み合わせて出来事を理解しようとする、②被災した中で自分の役割がある程度わかる、③自分自身の気持ちが多少わかる、④周囲との協力で、日常生活のペースを何とか維持しようとする、ことであり、苦しい状況下であれども、その状況に適応し、対応しようとする傾向がみられる。 しかしながら「自分は(遅延性)PTSDだ」と自ら訴える人も現れるだろう。DPTSDを含め、PTSDであるかどうかは医師が決定する事項であることから、安易な判断は禁物である。その一方で、特にDPTSDはうつ病に似た症状を呈することも多いため、慎重に医療機関を受診する必要があると考える。 DPTSDの症状としては、うつや不安、パニック、感情失禁、自傷行為が見られることもあり、またアルコール依存、疼痛、不定愁訴等も考えられる。一見他の疾患が考えられる場合でも、症状が長期化していると考えられ、、かつトラウマとなる出来事を経験している場合には、その点も考慮しつつ慎重に対応すべきであると考える。 指導員の立場から心の状態について考える場合、大まかに①指導員自身の心の状態、②指導員から見た訓練生の心の状態、に分けられるだろう。まず①指導員自身の心の状態であるが、特に指導員自身が被災者である場合には、「良くわからないが調子が悪い状態が続いている」、「集中できない(集中力が途切れる)状態が長期間続いている」、「以前は楽しめたことが、ここ何カ月も楽しめない」というような心身の不調に注意したい。食欲や睡眠の変化も重要である。また、周囲の人から「最近調子が悪そう」、「以前と比べて変わった」と言われた場合にもショックを受けたり混乱することなく「周囲からの助言」と捉え、一度医療機関を受診する等の対応を行うことが望ましい。 そして②指導員から見た訓練生の心の状態であるが、指導員にとっては観察と見守りの姿勢が重要なポイントとなると考える。訓練生が訓練に乗り気でなかったり、作業が上手くはかどらない場合、訓練生本人の資質や性格が関連すると思われる。しかしながら、それ以外の要因が含まれることも考慮する必要があるだろう。訓練生の状態に対し、すぐに注意や指導を行う以前に、その状態を丁寧に把握することが重要である。指導員が気になる訓練生の感情のコントロール、集中力の維持、積極性などを確認する「観察」を行いながら、訓練生本人から話をきいたり、周囲に訓練生の状況を確認することも必要である。一時的な不調であれば注意や指導を中心に「見守り」を行うことができるが、これまで指導してきた訓練生とは明らかに「何かが」異なるあるいは気になると指導員が考える場合には、訓練生本人と話し合った上で、相談室や医療機関受診を勧めることを視野に入れることが望ましい。 訓練生が自身のこころの状態を考える上でも、2つの点からの検討が必要となると思われる。それは、①訓練生自身のこころの状態、②指導員からの問いかけへの対応、の2点である。①訓練生自身の3.今後考えられる症状と対応−23−技能伝承の取り組みについて④

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