1/2012
24/40

2.4災害の直接体験と想像体験2.5 PTSDと遅延性PTSD 災害は、直接体験した人に対してのみならず、直接体験していなくとも、映像を見ることも含めた想像体験をした人に対しても恐怖感を与える。 直接恐怖を体験した人は、その出来事がトラウマになりやすいと言われており、その特徴としては①無意識的で身体反応が出やすい、②症状が重い、といったことがあげられる。直接体験したことにより、身体も心も無意識のうちに出来事を理解しようとしたりバランスを取ろうと必死になる。意識せずとも身体には力が入り緊張状態が続くことが多い。あるいは力を抜こうと努力しても、身体感覚が低下している際には、なかなか力を抜くことは難しい。このような場合、災害体験後の初期段階では、言葉で体験や想いを語っていただくよりも、各人に適したリラクセーションを取り入れ、身体をほぐして温めたり人を支え、また人に支えられていることを実感として体験することが必要であると考える。 一方、直接は恐怖を体験していない方々としては、主に被災地周辺の方々、事件・事故の被害者の家族が考えられる。その特徴としては、①「直接体験した」人々に比べて意識的で症状が軽い、②表出(表現)することで効果がある、と言われている。 このたびの震災では、被害地域が広範囲に及び、また被害の種類も多岐にわたっていることは周知の事実である。同じ地域でも、被災者の被害の大きさや生活は一様ではなかった。報道各社は、直後からそれらの映像・記事を繰り返し報じ、様々な状況や現地の生の声を届けようと奔走していたと思われる。しかしながら、被災地周辺から関東圏に住む人々は被災地・被災者を心配すると共に、繰り返される報道によって体調を崩すことも少なくなかったことが予想される。どのように小さな情報も報じられるため、受け取る側の視聴者、読者は一人一人に適した情報量を選択し、調節することができなかった。震災から1年が経過した現在も、1週間に何度も震災当日の映像や関連する事象を目にしている。引き続き我々がお互いを思いやることでつながりを感じられると同時に、見通しのつかない現状に、心配と疲労も存在することは否めない。 また、被災地での救助・救援活動にあたった人々、取材関係者、支援ボランティアにおいても、本来は直接の被害を受けていなくとも、現場を目の当たりにし、その中に留まり、そして被災地とは別世界の元の生活に戻るという体験をしている。「こころのケア」は主に被災者を対象として行われているが、同時に支援者を支える「こころのケア」も大規模な災害であれば不可欠ではないだろうか。 これらのことから東日本大震災においては、本来「想像体験した」人々が、恐怖を「直接体験した」人々の症状を呈することも大いに考えられる。現在も今後も支援活動が行われる事を考えると、直接恐怖を体験した方々のような症状が長期に多くの方々に及ぶ可能性も指摘できる。 PTSDの症状がトラウマとなる出来事から6カ月以上経って現れる場合には、「遅延性PTSD(DPTSD:Delayed-onset PTSD)」と言われる。6カ月以上遅れて現れると一言で述べることは難しく、その内容は個人によって大きく異なる。通常のPTSDでは、トラウマとなる出来事の直後から反応が見られ、時には長期にわたってトラウマ反応が継続されるが、DPTSDの場合、数年後に突然その反応が現れ、継続されることもある。「6カ月以上」という期間の中には、「数年後」も含まれることを心に留める必要がある。医療機関によっては「うつ病」と診断されることも多く、適切な判断をされにくい症状であるかもしれない。実際にDPTSDの発生メカニズムはほとんど明らかになっていないものの4)、一方でライフイベント(人生における生活上の大きな出来事であり、就職・結婚などの人生の中での大きなイベントを指す)との関連が指摘され4)、またDPTSDが生じる前には何らかの徴候が見られるとの報告もある。5) 東日本大震災においては被害が甚大であったために、被災した人々の中にはPTSDはもとよりPTSRでさえも我慢をせざるを得ない状況下にあり、トラウマ反応が表面化されない、あるいは表面化できない状態であった可能性がある。震災後1年が経過技能と技術 1/2012−22−

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る