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技能伝承の取り組みについて④にでも起こりうることである「トラウマ反応」と言われる。災害を体験した場合は、誰もが何らかのPTSRの状態を経験すると考えられ、逆に震災のような特殊な状況下においても何も反応が見られない場合が心配である。一方、PTSDは「通常であれば終息するはずのトラウマ反応が長きにわたり継続する特殊な症状」を指す。つまり、PTSRはトラウマ反応がある一定期間をすぎると終息するものの、PTSDはPTSRが1カ月以上継続し、日常生活が阻害されている状態が続いている事を意味する(図2)。3)自然災害に関しては、被災した人々の80%は自然治癒すると考えられている。被災者の80%がPTSRを経験しても、PTSDには移行しない可能性が示唆される。なおASD(Acute Stress Disorder:急性ストレス障害)とは、被災直後の初期段階で生じる治療の必要な状態であり、ASDからPTSDに移行する確率も高いと言われているため、医療機関の指示を受ける等注意が必要である。 それでは、「トラウマ反応」とは一体どのような反応であろうか。「トラウマ反応」の中核となる反応は、①再体験、②過覚醒、③麻痺・解離・回避である。「①再体験」では、災害に関わる記憶の凍結や侵入を意味し、体験した事象のフラッシュバックや夢(悪夢を含む)、子どもの無意識的な模倣遊び(津波ごっこ、地震ごっこ等)といった症状があげられる。また「②過覚醒」では、身体的・感覚的な過敏さを指し、恐怖につながる刺激に対する過敏・過剰な反応のことである。この「②過覚醒」は、必ずしも「ビクビクする」等のネガティブな状態の事のみを意味するわけではない。災害の救助、救援、ボランティアといった支援に携わる人々の中には、「自分がやらなければ」「自分の出番だ」と考え、長期間ハイテンションで活動する人が存在する。そのような人々も「②過覚醒」に含まれるだろう。そして「③麻痺・解離・回避」は、意識や思考の鈍感さ、あるいは意識的・無意識的な回避があげられる。具体的には、何もしないあるいはボーっとしている(麻痺)、記憶が曖昧である(解離)、出来事に関連することを意識的・無意識的に避ける(回避)、といった状態が考えられている。 東日本大震災直後に行われていた「心のケア」活動は、トラウマ反応をPTSDに移行させない試みとして行われていた。単に被災者の「話をうかがう」ことが目的ではないということを付け加えたい。図2 トラウマ反応と時間経過−21−

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