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2.1災害後の心身の変化 2011年3月11日の東日本大震災から1年を迎える。物的被害の大きさは言うまでもないが、震災は災害に遭われた方々は勿論のこと、直接の被害は見えないようなその他の地域の方々においても、経済活動や生活リズム、人との関わり方、考え方等様々な場面で影響を及ぼしていると考えられる。震災後これまでの1年間を考えると、個々人によってその想いや考え方は異なり、従って「もう一年経った」と考える人もいれば、「まだ一年しか経っていない」と果てしなく続く状況と捉える人もいることだろう。 このたびの震災では、災害救助・救援と同時に「心のケア」に関する支援要請も多く、現在でも岩手県、宮城県の心理士会を中心に活動が展開されていることに加え、終息の目処が立たない福島県については、関東のみならず関西の各都道府県の多くのスクールカウンセラーが交代で現地の子どもたちの支援を行っている。 ここであらためて「心のケア」とは何かを考えてみたい。「心のケア」1)とは、①被害者(被災者)の精神的苦痛やダメージを軽減し、PTSDなどの予防や回復を支援すること、②被害者(被災者)を取り巻く環境が混乱していることから危機事態以降に生じる二次・三次的なダメージのケアを行うこと、③被害者が困難な状況を乗り越え、肯定的な人生を再建するための、精神的、生活的、実存的な問題解決の支援等の活動が含まれる、とされる。注意したいことは、「心のケア」=「(被害者・被災者の)心のお世話をする」ということではない。「心のケア」という言葉が現在の日本で一般的に用いられるようになったが、その意味が適切に説明されることは非常に稀であると考える。我々人間には危機的な心身の状況に対して、自ら乗り越える力が備わっている。それは「セルフケア」と呼ばれるが、「心のケア」とは、支援者がその「セルフケア」の力を支えることを意味する。「心のケア」の方法としては、被災者の「話しをうかがう」ことが第一とは限らず、他の方法も取り入れ、状況に応じて対応できる臨機応変さが必要となる。その人の状況を客観的に把握すること、心身に関する知識を提供すること、場合によっては見守ることも「心のケア」に含まれる。現地に居住する支援者は支援者でありながら被災者であることから、支援者の「心のケア」も重要である。 本稿では以上の点をふまえ、災害時の心の仕組みや変化、今後指導員・訓練生に生じる可能性のある状況とそれに対する対応について、今一度検討することとする。 災害に遭う際は「○月○日○時に△規模の災害が起こります」と告知されることも、その時に備えることもできない。つまり、必ず我々が予期せぬ時に災害が起こるのであり、我々は状況に応じて対外的にも私生活にも何とか対応しようと神経を張り詰める。その結果、災害の規模が大きくなればなるほど生活のペースが乱れ、疲れやすくなり、また周囲への気づきや気遣いが不足しがちになると言えるだろう。具体的な心身の変化としては、①緊張・過敏1.はじめに2.災害時におけるこころの変化−19−臨床心理士 鈴木 貴子技能伝承の取り組みについて④ 震災復興と職業訓練の取り組み❹震災復興の中での心の動き―指導員や訓練生が今後経験する可能性がある心について―

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