4/2011
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【からくり人形師 九代玉屋庄兵衛氏による実演】は、携帯電話の世界トップシェアを持つが、構成部品の約八割は日本製だという。若者に人気のアップル社のiPodも同様だ。その日本のモノづくりの特徴は、世界一厳しいと言われる日本の品質や納期に対応してきた、研究開発と現場の人や経験が一体となっているところである。例えば、静岡県にあるアイパルス(株)の「表面実装機」は、高精度の組み立てが要求される電子部品の表面実装機の面精度を、現場の職人の技能により実現したが、それは汎用機械加工の限界である20μmを2μmに仕上げる職人技である。その先にあるナノテク技術は、日本における今後の重要な戦略技術であり、もしその実現を機械やシステムで行うには莫大な費用と期間が必要である。しかし、このような熟練技能を持つ「人」と日本得意のエレクトロニクス化した「機械」の組み合わせを行えば、比較的短期間に経費をかけずに、実用的な一歩を進めることが可能なのである。潜在的に日本の現場が持ち、繋げてきた技能や経験をどのように残し、さらに人と機械の関係性を発展させ、今後に活用していくかが重要である。 かつて、より高度な人と機械の生産システムとして導入された「オートメーション」を、日本は「自働化」と表現した。「にんべん」の付く「動」でなければならないことを、既に理解していたわけだ。明治の著名な科学者、寺田寅彦はその随筆の中で、「西洋の学者の掘り散らした跡へ、遙々後ればせに鉱石の欠けらを探しに行くのもいいが、我々の脚元に埋もれている宝をも忘れてはならないと思う。(『線香花火』より)」と、西洋で生まれた「科学」という自然観及びその知識体系を盲信する日本人への強烈な批判と、日本人研究者として、西欧の価値観である科学に挑まんとする自身のアイデンティテーを意識していた。それが「金平糖の角の研究」や「ひび割れの研究」のような、日本で始まった身近な物理現象の研究「寺田物理学」となったのである。同様の自覚と行動が、日本の強みである「熟練技能」や「技能伝承」にも必要であり、意識して、これからのモノづくりに行われなければならない。技能と技術 4/2011−24−

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