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 我が国の製造業は、その生産の3〜4割近くを輸出が占める、先進諸国の中でも突出した加工貿易型のモノづくりを行っている。この傾向は、従来から言われていたことであり、日本の工業製品の品質や性能が優れているためであるが、1985年のプラザ合意などにより、この日本のモノづくりが世界に認められる反面、他国に合わせた内需拡大の必要性などが叫ばれ、また90年代にはバブル崩壊と共に産業の空洞化も懸念されるなど、決して輸出を前提とした平坦なモノ作りを行ってきたわけではない。むしろ製造業は、平成16年の「ものづくり白書」に示すように、「2004年度には海外現地法人の売り上げが過去最高の79.2兆円、また、海外生産比率(国内法人ペース)も過去最高の16.2%になっている。海外生産比率を業種別に見ると、輸送機械が36.0%で最も高く、続いて電気機械が21.3%、化学が15.3%となっている。(p.28)」と、海外現地法人からの逆輸入額が2004年で8.7兆円、我が国の輸入額の19.1%を占めるほどに対外投資を増やし、他国との貿易摩擦をさけつつ、また国内のモノ作り基盤を失わない努力を行ってきた。一方、対外投資による海外工場の生産が増大するに伴い、完成工業製品の輸出は横ばいもしくは減ることとなったが、逆に日本の強さとして知られた製造設備機器やその手法、海外で生産・調達できない、日本が圧倒的な優位をもつ高機能材料や部品などの中間財が輸出を伸ばし、結果として日本の輸出比率は近年、徐々に増えつつある、というのが事実である。貿易摩擦を起こす完成した工業製品の輸出にくらべ、日本でしか製造できない中間財の輸出は、日本の技術力保持と流出防止と同時に、他国における組み立て生産というワークシェアを生み、貿易摩擦をさけることにも繋がっている。 この中間財製造の主体となっているのが、資本金3億円以下、常時従事者300人以下の、産業の空洞化を懸念された「中小企業」に分類される企業である。すなわちそれは、熟練技能や技能伝承を前提に成り立ってきた企業だ。バブル以降、中小企業は国内大企業の海外進出や中国、アジア各地などでの生産増大などを受けて、生き残りをかけた独自技術の開発や、経験や持ち込まれるニーズを受けた新規技術、新規事業の開拓を行ってきた。グローバルなモノ作りのための、ISO9000や14000にも、多くの中小企業が素早く対応し、言われたような産業の空洞化は、そのような中小企業の懸命の努力により、進展することなく、むしろ、現在の中小企業のモノ作りのポテンシャルは、江戸時代の手工業がその分業体制や職人の層の厚さが世界に認められたと同様、歴史上も、また現在世界の工業国の中で、川上の素材・原料分野から、川中の製造設備や部品などの素形材分野、そして川下の自動車産業や家電情報産業分野へと一貫した流れを持つ、ピラミッドのように強固で、富士山のように見事な裾野を広げた美しい産業体系を作っていると言えよう。それは世界が認めるものだ。ボーイング777では日本企業が約20%を分担し、'09年に就航予定の787機では三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の三社と日本航空機開発協会が、機体の35%、主翼や胴体など主要部分の生産を担当する。開発分担以外の部品供給も含めれば、日本製はこれだけではない。経済性と快適性を追求した787機では、機体構造材に炭素繊維複合材を多く用いており、東レが一括納入する。この他、ブリヂストンがタイヤを、ラバトリーやドアなどをジャムコが提供するなど、細かく数えれば、おそらく機体の半分以上は日本製になろう。このような現象は航空機だけではない。フィンランドのノキア社熟練技能と技能伝承を明日のモノづくりに繋げる−23−特別講演

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