4/2011
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らによる品質管理方式を導入した、“パートのおばさん”も参加する現場のQC活動から、サービス部門や管理部門などまで広げた「TQC(Total Quality Control)」へと、日本だからこそできたと言われる独自の発展を遂げ、さらに混迷の時代に求められるトップダウン的経営に対応する「TQM(Total Quality Management)」へと進化しつつある。「カンバン」も、トヨタが特許を持つ、日本の現場で生まれた発想である。それは、トヨタの創業者である豊田喜一郎氏が、父 豊田佐吉氏の「源流主義」と、挙母工場を建設する際に掲げた「ジャスト・イン・タイム」、すなわち「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」という「ムリ・ムラ・ムダ」を徹底的に省く考え方の浸透した現場で行われていた、優れた現場の職人や技術者が持っていた「段取り」のような工程管理能力や考え方を、大野耐一氏がシステム的にまとめ上げたものだと思う。従って、その概念の本質と学ぶべきものは、理論化されたテクニックやマニュアルにあるのではなく、あくまでも現場と働く人の中に存在するそれを、絶えず観察し、形式化する行為そのものにあると言えよう。 このように日本のモノづくりの他に比して優れたところは、トップとボトムがミドルも含めて双方向にコミュニケーションし、効率や生産性を双方から高めることができるという点である。日本では当たり前である「現場図面」は、気づいてみれば欧米には存在しない。責任と知識を持った設計者が書いた図面は、如何に生産の現場で無駄や無理なところがあったとしても、直す権限は現場に与えられていないのが世界の常識である。しかし日本では、当たり前のように現場で図面が修正されてきた。それは当然、設計者にもフィードバックされ、品質と生産性の向上に役立ってきた。現場図面とは、まさに経験を重ね、融通無碍に物の加工をイメージできる熟練技能者が持つカンとコツで書かれたものだ。最新の知識に、現場のカンとコツを組み込んだ図面は、設計と現場の協調作業の成果として、金型生産などが今日まで日本の得意分野であることの大きな理由である。 最近、様々な分野の工場で導入されている「セル生産システム(屋台方式)」も、ソ連(当時)などで始まった大量生産(ベルトコンベア方式)に対する多品種少量生産方式として研究が始められたものだが、冒頭述べたように、トップダウンのマニュアル式では多品種少量の生産を想定することは難しく、日本のような現場からのボトムアップが不可欠である。セル生産システムは、「製造における生産方式である。1人、または少数の作業者チームで製品の組み立て工程を完成(または検査)まで行う。ライン生産方式などの従来の生産方式と比較して、作業者一人が受け持つ範囲が広いのが特徴。作業者または作業者チームの周囲に組付工具や部品、作業台が「コ」の字型に囲む様子を細胞に見立て、セル生産方式と呼ばれている。特に、1人の作業者で製品を完成させる方式を、作業台を屋台に見立てて「1人屋台生産方式」とも呼ばれる。セル生産方式は日本で提唱された生産方式で、日系企業を中心に海外へも普及している。(『ウィキペディア(Wikipedia)』)」という、日本の現場が実現させた最新の生産システムである。ある工場で、それを見学させていただいた時、同じ製品を作っているのに、明らかに生産性が違うように見えた。いずれ生産性の高い方に合わせるのですか、と尋ねたところ、今1時間に10台作る人と1台しか作れない人が、一ヶ月後に双方がお互いに協力・工夫して、10台が12台、1台が5台になれば、生産性は1台の人の方が上がったことになる。それぞれに行われた工夫がセル生産の貴重な知識になると答えられた。現場にある人の能力を重視、尊重した生産システムこそが、セル生産なのである。それは古くから親しんできた伝統の「型」文化・「守破離」が、現代的に応用されたように、私には感じられた。文化に根付いた日本でしか作れないモノづくり。日本のモノづくりが「KAIZEN」や「KANBAN」と同様、「MONODZUKURI」で通用するようになれば、今後の日本にとってそれは大きな意味を持とう。技能と技術 4/2011−22−

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