4/2011
21/38

講演別特 「いらっしゃいませ」「ほかに御用はございませんか?」 ファストフード店などでの紋切り型の対応に、眉をひそめる日本人は多い。間違いなく、大抵の日本人はマニュアル通りに対応されるのが嫌いである。マニュアル自体は、ノウハウの固まりであり、すなわち「熟練技能」や「職人技」(暗黙知)などから抽出されたもの(形式知)で、それに従えば”誰でも”が、あるレベルの知識や技術を利用でき、相応の効率や生産性を達成できるものである。ただしマニュアルは、ある対象や事象、その行為や行為全体から文字や知識として抽出できた情報であり、伝えられるところは限られる。基本的に欧米で発展したマニュアルは、支配者や指導者が、集団の全体的なレベルを、あらかじめ想定し、その想定レベルに対して作られるものであり、想定外のことや日常にある現場レベルのイレギュラーに、個々の対応を求めていない。トップダウン式に成り立ってきたマニュアルでは、全体の効率や生産性が想定レベルを上回ることはなく、大きな変動は指導者により対応されるかも知れないが、小さな変動、現場で起こる些細な問題への対応力は小さいと言えよう。 対して日本人はマニュアル化されない「機微」とか「以心伝心」といった、個々の現場対応の部分に熟練技能と技能継承を守ってきた「型」文化〜用の美を生んだ匠たち−19−特別講演国立科学博物館理工学研究部科学技術史グループ 研究主幹 鈴木 一義  平成23年12月1日、2日の2日間、職業能力開発総合大学校において職業大創立50周年記念事業 第19回職業能力開発研究発表講演会が、「ものづくり技能伝承は、人づくりから」をメインテーマに開催されました。本号では、2日に行われました「特別講演」を紹介します。“熟練技能”とその“技能継承”日本のモノづくりを支える

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る