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写真2 因島技術センター事務所(日立因島内)図表2 因島技術センターの研修科目若年者訓練への取り組みについて② 中小事業者にも持続可能な人材育成方法の確立を求める声はあったが、従来の「先輩の技術を見て盗む」徒弟制度的な方法では時間的、費用的にも困難なものであった。そこで、一つの解決策として導き出されたのが官民一体となった共同事業となる「因島技術センター」の設立である。 基幹産業における人材育成を「地域全体の問題」と捉えた官民一体の取り組みは、若年層における造船業への定着率向上と技能伝承の円滑化に繋がり、その企業定着率と費用対効果の高さから「人材育成の因島モデル」として同様の職業訓練校が全国各地に設立されることへと繋がった。 本稿では、因島技術センターの人材育成モデルと取り組み事例を考察していく。 因島技術センターとは、因島地域の中小事業者と行政が官民一体となって設立した日本初の造船事業者による共同認定職業訓練校である(写真2参照)。平成11年度に設立して以降、一貫して地域の人材育成を担っており、構想は民間主体で中小事業者独自の人材育成システム確立を目標としている。 他の認定職業訓練校にはない大きな特徴としては、自前の研修施設を保有しておらず、事業者が実際に操業している施設と設備を借用して研修を実施していることと、行政が事務局を務める単市の産業施策にも関わらず、研修をオープン化して市外からも幅広く研修生を受け入れていることが挙げられる。 研修科目は設立時から取り組んでいる新人技能者の育成を目的とした「初任者研修」のほか、平成16年度からは国土交通省、日本財団、造船関連団体※1の支援を受けながら中堅技能者を対象とした「撓鉄※2」「溶接」「配管艤装」といった専門技能研修を開講し、これまでに1,000名以上の技能者に造船特有技能の技能伝承を実施している。平成22年には造船系大学・学部の減少に伴う造船技術者の基本的知識の不足に対応するため、独立行政法人海上技術安全研究所と共同で「船舶海洋工学研修」を開講したほか、IMO※3において採択された防食塗装に関する国際性能基準(PSPC※4)に対応するため「PSPC塗装性能基準対策講座」を開講し、技術系科目への取り組みも始めている。また同年、労働災害の防止と安全意識の向上を図る新しい安全教育方法として実際に労働災害を疑似体験できる「安全体感研修」も開講するなど、現在では、「技能」「技術」「安全」を三本柱とする研修体制を整えている。 研修の受講者数は平成22年度までの12年間で2,766名にのぼり、その内訳は初任者研修が761名、撓鉄、溶接、配管艤装の各専門技能研修が209名、船舶海洋工学研修が32名、PSPC塗装性能基準対策講座が118名、安全体感研修が1,646名となっている(図表2参照)。 初任者研修は昨今の造船活況に伴い平成16年度を契機として40名前後から急増し、平成21年度以降は120名前後の水準にまで達している。加えて平成16年度から各専門技能研修、平成22年度から船舶海洋工学研修とPSPC塗装性能基準対策講座を順次開講した結果、主目的である人材育成事業(安全2.因島技術センターの概要−7−

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