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図表5 初任者研修受講者10年後の定着率業者が独自に取り組むことは困難であり、地域一体となって取り組むことが必要であった。基幹産業における人材育成は地域雇用の創出、ひいては人口減少・流出の歯止めともなり、少ない財政負担でこの一助となるのであれば、新しい産業施策の一つとして取り組む価値はあったと考えている。また、この取り組みを内々に限定しないことが肝要であった。地域や市町村ができる支援は限られるが、取り組みをオープン化することで幅広い支援や相互関係を生み、業界全体に波及させることができたのである。 因島技術センターの設立以降は、中小事業者における人材育成が円滑に図れるようになり、造船業への就職率や企業定着率も増加傾向にある。中小事業者もしっかりとした人材育成制度があることを採用活動での強みとしており、官民一体となった取り組みは一定の成果を上げていると言えるのではないだろうか。このことは、図表5も示している。造船業は「キツイ」「汚い」「危険」という、いわゆる3Kに代表される業種であり、高卒の新規採用者における5年後の企業定着率は5割程度とも言われている。しかし、平成20年に事務局が初任者研修受講者に対して実施した企業定着率調査では、平成11年からの累計で76.1%と非常に高い数値を保っていることが分かった。企業定着率が向上したことは、計画的な人材育成が可能になり、地域の技術基盤を向上させ、大手事業者との「技術格差」の是正にも繋がっていると言えるだろう。 最後になったが、この因島技術センターの人材育成モデルは造船業に限らず、他の産業においても応用ができるものと考えている。「○○の町」という言−13−※2 撓鉄とはガス加熱した鋼板を水で冷却して収縮させることで曲げる作業であり、経験に裏打ちされた造船特有の匠の業である。※3 IMO(International Maritime Organization)   国際海事機関。※4 PSPC(Performance Standard for Protective Coatings)   IMOが船舶の安全性能を確保するため、第82回海上安全委員会で採択したバラストタンク、二重船殻部に対する防食塗装の国際性能基準。平成20年7月1日以降に契約した新造船は新しい基準が強制適用され、15年以上の防食耐用年数が求められることとなる。※5 財団法人日本海事協会   国際的な船級協会として船級登録、設計図の審査承認、船※6 日本工業規格   日本工業標準調査会が工業標準化法に基づき制定する工業《参考文献》因島市役所編(1987)『造船企業城下町因島の概況』因島市役所。社団法人日本中小型造船工業会編(2003)『中小型造船業における雇用流動化対策及び人材の確保-雇用流動化への対応に関する調査報告書(艤装工事編)-』,社団法人日本中小型造船工業会。財団法人シップ・アンド・オーシャン財団編(2004)『造船技能開発センター構想調査報告書』財団法人シップ・アンド・オーシャン財団。若住堅太郎(2010)「高度な専門的な技能の維持・継承-因島技術センターにおける人事育成モデルと取り組み事例について-」『平成21年度職業能力開発論文コンクール入賞論文集』,pp.66-79,厚生労働省職業能力開発局。若住堅太郎(2011)「因島技術センターにおける人材育成モデルと取り組み事例について」『職業能力開発総合大学校能力開発センター 第18回職業能力開発研究発表講演会予稿集』,pp.6-7,独立行政法人雇用・能力開発機構。葉が代表するように、地方では特定の産業が町の基幹産業として雇用経済を支えているケースが多々ある。大手事業者の企業城下町として支えられている地域は良いが、問題となるのは中小事業者のみで支えられている地域である。このような研修事業に新しく取り組もうとする場合、とかく専用施設の確保や設備の購入に捕らわれがちになるが、この因島モデルを活用すれば、そのリスクを最小限に回避できるのではないだろうか。初期投資を必要最小限に抑えられれば、1つでも2つでも多くの研修に取り組む費用に充てることができ、その後の継続性にも追求できることとなる。この因島での取り組みが、中小事業者における人材育成の一つの取り組み事例として参考になれば幸いである。───────────────────────※1 社団法人日本造船工業会、社団法人日本中小型造船工業会、社団法人日本造船協力事業者団体連合会の3団体。舶検査等を実施する機関。規格。若年者訓練への取り組みについて②

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