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写真9 講義中の指導員技能と技術 3/2011写真10 実習中の指導員写真11 加工中の指導員−12−写真12 完成したピースいる。前述のとおり、施設を全て借用している関係から、センター長と総括指導員は施設を借用している事業者から現役職員の派遣を受けているが、次長以下、研修の座学講師や実技指導員については全てOBで構成されている。この因島モデルと言われる人材育成モデルが成功したのは、あるいは、地域にこのような人材がいてくれたという大きな財産があったからかもしれない。指導員は研修期間中の雇用であり、また、担当科目がある日のみの出勤となる。賃金も決して高くなく出勤日も不定期のなか、地域貢献のためとボランティア精神で快く引き受けてくれており、その熱意ある講義は研修生を派遣する各事業者からの評価も高く、因島技術センターにとって掛け替えのない存在となっている(写真9‐10参照)。 これで、「ヒト」と「モノ」が揃った。最後に必要となるのは、「カネ」である。つまり、研修を持続するためのランニングコストが賄えるかである。 研修において最もコストが掛かるのは人件費であるが、前述のとおり、OBの力を借りることで低く抑えられている。次いで費用が掛かるのは研修用の資材費である。ものづくりの研修では、これらの資材費が運営費全体に占める割合が高く、常にコスト削減に頭を悩まされる問題となる。3か月間の研修で必要な鋼材を全て購入するとなれば到底賄えるものではなく、これをどのくらい低コストで賄えるかが問題となってくる。 そこで、センターでは、ある工夫を図っている。 鋼材の使用頻度が最も高い「溶接」「ガス切断」の研修用ピースを、端材を購入して指導員が切り出しているのである(写真11‐12参照)。造船所から出る端材であり品質には問題がない。端材を活用することで、切板加工された新品の研修用ピースを購入するよりも3割〜4割程度にコストを抑えることが可能である。しかし、これは全てではない。例えば、溶接の裏当材などは細かすぎて加工に時間が掛かり、予め機械加工された物を購入した方が指導員に支払う賃金に比べてコストが安くなる。切板を購入した場合と端材を購入して指導員がピースを加工する工賃を比較して安価な方を選択しているのである。また、加工した研修用ピースは溶接実習に使用した後に指導員が再加工するほか、研修生がガス切断実習に使用するなど、研修用ピースとして使用できなくなるまで何度でも繰り返し使用している。このことにより、研修用資材に掛かるコストを大きく削減できたほか、研修生にピースの使用制限を課すことなく、本人が希望するだけの実習をさせることが可能となっているのである。 以上のように、ヒト・モノ・カネを有機的に活用することが、研修事業の継続性を生み出している。専用の研修施設や設備で新品の鋼材を使って研修を実施する方が一見して見栄えが良く、充実した研修のように見えることがある。しかし、因島技術センターのように手弁当で研修を行っても内容と充実度は全く同じであり、結果は同じなのである。目的は研修施設の充実ではなく、中小事業者でも人材育成や技能伝承が継続して行えるという結果なのである。 本来、従業員の人材育成とは各事業者の責任で行われるものである。しかし、他に主たる産業を持たない地域では基幹産業の衰退が地域全体の衰退へと直結してしまう。この問題に体力の弱い中小事5.考察

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