2/2011
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が、教室で行う研修にはうってつけである。現場での撮影はビデオカメラやデジタルカメラの動画でも近年の性能からすれば十分である。研修1日目は上述の内容で行い、ひとつの映像型技能伝承教材を完成させることで終了する。基本的な流れ、制作方法を理解できたという判断のもとで、実際の各職場での作業を題材とした技能伝承教材を制作することを、2日目までの宿題としている。2日目は約1ヶ月後の開催としている。 宿題として提出された教材は一ヵ月後の研修の時に参加者全員のもとで評価を行う。現場が違えば全く作業内容が分からないという問題もあるが、分からない故に素朴な疑問が出てくる。なぜそうしているのか、今の動きはどういう意味があるのか、どれくらいの力で行うのかなど、提出者は当たり前に思っていることが、第三者からみれば不思議に思うことが多々ある。実際にこの評価の場面で、提出者が気づかないカン・コツが出てくることもある。その一方で作業内容やその手順の説明に終始し、肝心のカン・コツ部分が出ていない教材もある。カン・コツに気づきそれを内から外に出すというのは、基本的な教育訓練の方法を身につけていかないと簡単にできることではない。しかし、これをやらずには本当の意味での技能伝承はできない。受講者アンケートの結果からは、この研修が伝承活動に役立つという意見が大半であり、一定の評価はできる。しかし実際にこの教材を現場で制作できるかというと意見が分かれる。現場は人が少ない、その時間が無い、仕事として与えられれば制作するというのが現状である。このような現状を打破していくためにも、効果的、効率的な映像型技能伝承教材の制作ノウハウを身につけることは重要な意味を持っている。 技術・技能の伝承は、企業にとって喫緊の課題となっているが、自分たちの持つ経験や技能を若い世代に移していくべき役割にある熟練技能者の言葉として、「操業が大変忙しくて、技能伝承をやる時間がない」とか、「私たちは若いころから、人に教えるという訓練を受けてこなかったので、技能を教えることを大変難しく感じる」あるいは「自分に何か技能があると言われても、何をどう移していけば良いのか分からない」というような悩みが多く出されている。特に、カン・コツと言われる技能の本質的な部分の抽出方法や伝承方法が確立されていないために、熟練技能の次世代への伝承が、なかなかうまく進んで行かないという実態がある。 カン・コツの部分を伝承するために、伝承者はポイントとなる感覚と運動の要素を作業の中から引き出して見せ、示すことが必要で、これらをできるだけハッキリと学習者に分かるように示すことが重要になる。曖昧な形で示されても学習者は初めてなので戸惑い、どんな感覚なのか、運動なのかの判断ができない。カン・コツと呼ばれるものの中には、それをうまく示せないために伝承可能だが不明確なものと、伝承者自身が不可能と考えているものが含まれており、これが伝承を難しくしている大きな要因である。しかし、不明瞭なものは明瞭化したり、見えるように工夫すれば良い。また伝承不可能と考えられているものでも、何らかの工夫によって伝承を可能にすることができるはずである。技能伝承を進める上で課題となっていたこれらの問題に対して、今回、映像型技能伝承教材を工夫して制作することにより、効率的、効果的に解決できることを実証した。つまり、見えないもの、把握が困難なものとされていたカン・コツを、ベテランへのインタビューを通して、内から外に引き出すことに成功するとともに、その感覚と運動の要素を学習者の目でも見えるように加工することが出来た。これを基に、技能伝承のための指導者育成研修を行い、一定の成果をあげることが出来た。しかしこの研修はまだ緒についたばかりであり、ベテランが持つ複雑で高度な技7.各職場作業での映像型技能伝承教材の制作8.まとめ技能と技術 2/2011−6−

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