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 ものづくりには、1人の作り手が最初から最後まで行うものづくりと、工場などのように複数の作り手が分担して行うものづくりとがある。どちらも、ものを作り上げるという根本は同じであるが、作り上げていく過程では多少の違いはある。 工場では、マニュアルや作業標準を定めた標準作業書などによって、ものづくりが行われることが多い。このような工場におけるものづくりへの“こだわり”は、どうであろうか。 工場のものづくりには、組織としての方針やこだわりの中で、作り手が自らの役割を果たすことと、ものづくりに携わる作り手の個人としてのこだわりとが存在する。しかし、その存在は、ときとして相反する面があると言われている。属人化されたこだわりだけで、各個人がものづくりを行った場合には、組織としての整合性がとれなくなる。一方、マニュアルや標準作業書に従うだけのものづくりでは、ある一定の品質は得られても消費ニーズに素早く対応していくことや、もう一段と向上した品質を達成するには、困難を伴うことになる。組織が目指すものづくりへの“こだわり”や方針は、重要な事柄ではあるが、それだけでは十分ではない。既成概念にとらわれず新技術に挑む心意気や創意工夫を行うなど、作り手(作業者)のものづくりへの“こだわり”によって、製造方法や品質の改善、新製品の開発など、組織としての活性化が図られていくものと考えられる。 ものづくりに携わる熟練した作り手を養成するには、先にも述べたように時間や手間、ひいてはカネもかかる。最近の経済情勢などから、新人を採用して時間と経費をかけて熟練した作り手になるまで人を育てていく余裕もなくなってきている。そのため、即戦力になる作り手(人材)を求める傾向も強くなってきているが、どこかで人を育成しない限り即戦力になる作り手(人材)は生まれてこない。また、若い人たちも一人前になるのに時間を要することやそれに見合う収入を得る保証がないことなどから敬遠しがちである。これは、職人などの世界でも、工場などで働く作り手の世界でも同じ傾向にある。 さらに工場などでは、熟練した作り手がここ10年以内に退職する、いわゆる2007年問題を抱えている。熟練した作り手のものづくり力には、伝承が比較的容易な技術(形式知)に類するものと伝承が難しい技能(暗黙知)に類するものとがある。技能は、形式知化されて、技術へと移行して行くものもあるが、技術に移行出来ないものも多くある。2007年問題を解決するために次世代へ継承が急がれている技術・技能の中で、伝承が難しい技能や技(暗黙知)の部分は、約2〜3割あると言われている。この部分が、製品の個別化や優位性を形成するのに力を発揮する部分であるが、形式知化された技術部分に比べ継承が難しく、あまり進んでいないのが現状である。 天然資源の少ない日本の経済を支えているのは、工業製品などが91%以上(2008年)を占める製造業の輸出である。しかしながら近年、技術移転が新興国へ一段と進んでいることや、さらに、情報通信技術の発達などによりモジュール化された半製品を組み合わせるなどして、最終製品化できるようになり、安い労賃などと相まって競争力を付けてきていることである。 また、さらなる問題としては、停滞する日本経済や、熟練した作り手が退職時期を迎える2007年問題ともからみ、日本の優れた技術者、技能者、職人が新興国(中国、台湾、韓国、東南アジアなど)に移籍し、その国の企業の中で大いに活躍し効果を上げていることである。これは優れたスポーツ選手の海外での活躍する姿を連想させる。 このような状況の中で、日本が工業製品の輸出競4.複数で行う“ものづくり”への“こだわり”5.ものづくり力の伝承6.“ものづくり”への“こだわり”と今後の展開技能と技術 2/2011−32−

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