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3.基礎力調査たいと考えたからである。 工業英語といっても筆者が最初に使ったのは一般的な科学技術エッセイ-科学と技術の歴史や先端技術の紹介,科学論,科学者の自伝的エッセイなどであった。これらは内容的に興味深かったが,たいてい一遍の文章が長く,内容把握に重点があって,英語構文の基礎をしっかりと身につけさせるには使いにくかった。また今思えばこれらは科学技術に関する知的関心を高めるものだったが,技術を学び使い実践するための英語ではなかった。工業英語は技術者のための現場的実践英語なのである。 本格的に授業を工業英語に転換し,工業英検も取り入れることを決めたのは,学生の基礎力低下に直面したことが大きな契機であった。従来のスタイルでの授業が大変やりにくくなったと感じるようになり,学生の実情をもっとはっきり知るために,2005年に「英語学習に関する意識調査」を行い,また2006年からは毎年新入生の英語基礎力調査を行ってきた。その結果,予想以上の深刻な基礎力不足があることがわかり,英語教室としては基礎力の養成が最大の課題となったのである。 私たちは学生の現状の把握につとめ,対策を考え,基礎力補習授業を行い,教材を作成するといった仕事を試行錯誤しながら行ってきた。これらの仕事を通して,基礎とは何なのか,最小限欠かせない要素は何か,どのような形で,またどのような順序でそれを提示し習得させるべきか,大学生にふさわしい基礎学習の在り方は何か,特に本校の学生に必要で適切な英語力の内容と学習法は何か,等の問いが浮かび上がり,それらの問いを考えていく中で,工業英語が有力な方法の1つであると考えるようになったのである。それ故,ここで基礎力養成の取り組みについても概略を述べておきたい。 最初に行った調査は学生の英語学習に関する意識やこれまでの英語学習の経験,英語を用いる環境,獲得したい英語力像等をつかみ,クラスの学生個々の現実を知り,授業に生かそうという目的で,200534年7月に実施した「英語学習に関する意識調査」(5)である。 その結果,英語の必要性に関する認識は非常に高く「英語で仕事ができる」能力を身につけたいと考えている学生が4分の1程度存在していることがわかった。しかし他方で自分の英語力に対してネガティブな評価をしている学生が大変多く,要求の高さと自己評価のギャップが大きかった。また小中高校で口語英語重視の教育が主流を占めてきた結果として,英語を話すことに対する抵抗感は少なくなり英語に親しみを持っている学生が増えてきたが,簡単なあいさつや自己紹介などパターンがわかっていることは抵抗なくできるが,その場の必要に応じて質問をしたり応えたりするような会話はよくできない人がいること,読み書きは苦手であるという学生が多いことがわかった。 この結果を見て私たちは基礎学習をきちんと積んできていない学生が多くいると考えざるを得なかった。また多くの学生が今までの学習の上にどう進めていけば向上できるかという学習の道筋が見えていないために,何をどう勉強すればよいかわからない状態でいるのではないかと思われた。したがって基礎力獲得の目標を示し,そこまでの道筋を示すことができるようにしなければならないと考えたのである。 そのためにまず学生の基礎力の実態を具体的にリアルに知る必要があった。そこで2006年以来毎年4月第1回目の授業時に新入生の英語基礎力調査を実施してきた。この調査の目的は,英語の基礎の要素を厳選した問題を解いてもらい,誰がどの項目を理解しどの項目を理解していないかをつかむことである。例えば「関係代名詞の格を理解し正しく使うことができる」というスキルをマスターしていないのは誰と誰か,またクラスの中で何人がマスターしていないかを知ることによって,もしマスターしていない学生の数がかなりの人数であればその項目は授業で取り上げる必要があるだろうし,ごくわずかの人数であれば授業外の時間に対応する方がよい,というように授業の進め方や教材の選択の判断材料とすることができる。技能と技術

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