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図4 安全作業のシーン3)で確認することにしていた。彼は,溶接部の外観では高い評価を得るが,この曲げ試験で不合格となるケースがたびたびあり,この問題の克服に苦労していた。 こういった事例では,著者はいつも訓練生に対して「なぜなぜを繰り返せ!」と指導している。いわゆる品質管理手法の1つである『なぜなぜ分析』である。彼に対してもそうであった。 一例(MAGによるV開先裏当金有りの多層盛溶接において裏曲げ試験を実施した結果,融合不良と考えられる不具合が発生した場合)をあげると, 「なぜ,この箇所に融合不良が発生したのか? 考えられることは?」  →実際の溶接電流の出力値が低かったかもしれない。 「なぜ,溶接電流の出力値が低かったのか?」  →溶接ワイヤの突出長が長かったかもしれない。 「なぜ,ワイヤ突出長が長かったのか?」  →開先内では,ワイヤを長めに突き出さないとやりにくいから。 「それでは,初層の溶接は,元々の電流設定値を高くしてやればよいのでは…」  →わかりました。この層だけ溶接電流の設定値を高めにしてトライします。…というような具合である。このやりとりは,わかりやすく表現するため,溶接電流だけに焦点を絞って書いているが,実際にはトーチの角度やねらい位置,溶接速度など他の要因もあるため,『なぜなぜ分析』はもっと複雑になる。時には,特性要因図を活用することもある。溶接の技能訓練では,こういったケーススタディが多く,品質管理手法を適用することで,実践的な職業訓練を実施することができる。 話を戻すが,このような訓練を繰り返すことで彼は更に実力をつけていった。訓練期間が5ヵ月を過ぎたころ,JIS溶接技能者評価試験(被覆アーク溶接,半自動MAG溶接の基本級2種目)を受検する34ことになる(ポリテクセンター広島/テクニカルメタルワーク科の訓練生はほぼ全員が受検)。結果,2種目ともに試験当日に行われた外観試験ではA評価,また後日実施された曲げ試験もクリアし,評価試験に合格することができた。 同じころ,彼の就職先が決まる。広島市内にある金属加工製造業である。ハローワーク発行の求人票によれば集塵装置やボイラー,焼却炉,局所排気装置を製造しており,溶接工職で募集をしていた。この会社は,景気が大きく低迷していたこの時代に,売り上げ(利益)を大きく伸ばしてきており,訓練生からも人気があった。製造対象の商品が,大型溶接構造物であるため,溶接が好きな人には魅力的な職種と思われた。 ポリテクセンターを修了後,3回ほど,職員室を訪ねて来てくれた。入社当初は,ポリテクセンターで学んだことがそのまま仕事で活かされ感謝している旨の話をしていた。慣れたころには,実際の溶接施工に関する話や,職場の安全衛生にかかわる話など愚痴をこぼしながらも熱心に報告してくれていた。まさに現場技術者・技能者として立派に成長していく過程を見せられ,非常にうれしく思ったのを記憶している。彼の作品『とろける鉄工所(以下,“とろ鉄”と略記)』には,こんなシーンがある(図4,図5)。技能と技術

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