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大切にすることがものづくりに通じているからこそ,ガス溶接作業を習う前にも素手で吹管バルブの開閉操作をさせている。それは,バルブの感触を指先が十分に覚えこんだ後でないと,逆火や逆流した非常時にバルブ操作が一瞬でも遅れると災害につながることに他ならない。 一方で,金属加工以外に目をやれば,手は不思議なパワーと優しさを持っているといえよう。例えば,人が人と接するのは握手でもわかるように手の温もりから始まるのであり,老人を介護するときも優しく手のひらでさする,あるいはなでると老人の笑顔は優しさに包まれた安堵感を見せる。このような場面から,相手の肌に触るのが嫌だからと手袋を着用したままで介護作業を行えば,人間同士の触れ合いはなくなり,介護者としての仕事は成り立たないのではないか。もう随分前の話になるが,私も父親の看病をほんの少し経験したことがあった。その際の看護する動作に気持ちが込もっていないと,相手は敏感に感じ取るものであり「お座なりでさするのならいらん!」と厳しく叱責されたことがあった。このように手の持つ能力はすばらしく,その感触を技能者として研ぎ澄ませることをゆめゆめ軽んじてはならない。  わが国は品質の良いものを作って世界の国々に輸出して豊かな暮らしが成り立っている。それは,日本製品の信用が命であり,私だけが少々は手を抜いてもいいだろうといった,ものづくりに対する姿勢が緩んだときに改ざんや偽装につながっていき,やがてはそれが形をなして製品の中に残されて,信用を失うという取り返しのつかない事態になるのであると思われる。そうであるからこそ職業訓練は,技能と技術を支える手のすばらしさを再認識して指導しなければいけないと思うのだが,どうだろう。39Cクランプ弓のこ作業3/2009Cクランプヤスリ作業

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