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6.開発途上国から近代国家に向けてりを開くまでの修行が厳しい分,仏や僧侶が民に施す慈悲は深くて優しいのだろうか。 スリランカは先の大戦において日本軍の攻撃を受けているにもかかわらず,1951年のサンフランシスコ対日講話会議においてスリランカ代表(故ジャヤワルダナ元大統領)は仏教の経典「憎悪は憎悪によって止むことなく,愛によって止む」を引用して対日賠償請求権を放棄している。この歴史が対スリランカへの最大援助国になっている理由の1つともいわれている。 こんな経験もした。長期専門家が任期を終え,学内で簡単な送別会が開かれたときのことである。 簡単なセレモニーが終わって談話しているとき,教えを受けた学生20名余りが整列し感謝の言葉を述べた。その後1人ひとりが順に葉を捧げながら専門家の足元で頭を地に擦りつけるような深い土下座をして感謝の意を表すのである。「師」に対してこのような感謝の表し方があるのだろうかと初めて見る光景に写真を撮る手が震えてしまった。聞くところによれば,学校を卒業するときや家を出て自立するときも親に対してこのように土下座で感謝を表すそうである。本来「師」や「親」はそれほど感謝すべき存在なのである。スリランカでは校内暴力や家庭内暴力が理解できないという。 表1はアジア諸国の経済指標を表したものである。国民1人当たりのGDPで比較するとスリランカはベトナム,インドのやや上,中国,タイより低く,フィリピン,インドネシアとほぼ同等という位置づけである。 日本のODAは①アジア諸国重視,②インフラ整備,③借款の多用,④直接投資による民間の活用を基本政策として展開されてきた。日本の援助は供与比率が低い,対GNP比率が低い,日本企業とのひも付きなどの問題指摘もありながら,結果としてはアジア諸国に空港や道路,鉄道,港湾などのインフラ建設に重点を置き,民間の工場を誘致するなどの直接投資を喚起し,借款以上のGNP(国民総生産)を向上させるという自助努力促進型の援助は確実に効果を上げてきた。シンガポール,韓国,台湾もかつては日本が援助し,現在は第3国に援助するまでに発展している。 スリランカが例えばタイやマレーシア相当の経済レベルに至るには以下のプロセスが考えられる。① 内戦の終結② インフラの整備③ 人材育成④ 民間の直接投資⑤ 観光開発 すべてのプロセスに優先するのは現在の内戦の終結である。かつてはイギリスの植民地で多民族国家いうスリランカと境遇の似たシンガポールは,強力な指導者リー・クワンユーのもとで民族紛争からの脱却を各民族の権利を完全に平等することで終結させた。その後,徹底した人材育成によって海外からの投資に応え,観光開発とともに高度経済成長を達成し,今日の繁栄を築いた。この見事な模範解答を参考にできないのだろうか。 最大援助国としての日本は現政府へのプレゼンスは世界のどの国よりも高い。日本は2003年「スリランカ復興開発に関する東京会議」を開催するなど,スリランカ和平のための支援は行っているもののその効果は顕著にはみえない。 東アジア,東南アジアの奇跡的な経済成長は活発な民間企業の直接投資によって達成された。スリランカではコロンボ市内のビジネス街にビル,高級アパートメントなどの新規建設は見られるものの海外企業の進出は活発とはいえない。それでも今後,JSCoTのようなより高度な技術を習得する環境が体系的に組織され,排出される人材が民間企業と有機的に結合されれ技能と技術図13 スリランカ風学生の謝意36

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