<参考文献>く「学業経験」,「観察経験」,「デジタル視聴経験」,といった3要因が抽出された。学業経験要因は,小学校以来,「光の反射では入射角と反射角が等しくなる」と教授され続けており,その概念が過度に一般化されることが原因として存在するとするものである。また,観察経験要因は,壁当てやエアホッケーなど,自分が発生させた斜め衝突現象を観察する際,視点位置の関係で角度変化に気付かず,等角ではね返ると誤解することが原因として存在するというものである。そして,デジタル視聴経験要因は,テレビやゲームなどのデジタル画像を通じ,壁や床に衝突した物体は,等角ではね返るイメージを摺り込まれるというものであり,これは,現代社会特有の原因事象であるといえるかもしれない。このように,人々が保有する誤概念の裏には,必ず,その形成の基となった経験的裏付けが潜在するものである。繰り返しになるが,誤概念を払拭するには,自分自身がその誤概念を意識化することが第一歩である。我々は,日常的な経験的裏付けからややもすると誤った概念を形成していないかを常々客観視し,正しい思考・判断を心掛けていきたいものである。今回,平面上で起こる非弾性衝突を題材に,理論と現実とのギャップ,理論と我々が形成・保有してしまいがちな誤った概念とのギャップなどについて述べた。ものづくりの現場では,衝突現象に限らず,様々な物理現象が関連する。机上でも,あるいは様々な現場においても,理論を大事にする一方で,その限界をも理解し,また,自分自身が保有しているかもしれない誤った概念の危険性にも留意しながら,事実に則した正しい思考・判断をすることが,品質・生産性・安全性の高いものづくりに繋がるであろう。将来ものづくりに携わろうとされている方々には,机上と現場で,別々の知識体系を無意識に使い分けてしまうことなく,一元化された知識体系の下で思考・判断ができる技術者・技能者になって頂きたいと願う。-27-(1) 栄嶌政弘, 他14名:高校生のための近代物理学史, 奈良近代物理学史研究会,(2004), 18.(2) M. Marci : De Proportione Motus,(1639).(3) I. Newton: Philosophiae Naturalis Principia Mathematica,(1687).(4) 戸田盛和, 宮島龍興:物理学ハンドブック, 朝倉書店, (1999), 46-47.(5) 阿部龍蔵, 川村清, 佐々田博之:物理学新訂版, サイエンス社, (2002), 64-65.(6) 國仲寛人:物性研究, 90(5)(2008), 685-720.(7) 中村英二, 他14名: 高等学校物理, 第一学習社,(2013), 39.(8) G. Kuwabara and K. Kono : Japanese Journal of Applied Physics, 26(8)(1987), 1230-1233.(9) R. Sondergaard, K. Chaney and C. E. Brennen : Journal of Applied Mechanics, 112(3)(1990), 694-699.(10) K. D. Supulver, F. G. Bridges and D. N. C. Lin : Icarus, 113(1)(1995), 188-199.(11) N. V. Brilliantov, F. Spahn, J.-M. Hertzsch and T. Pöschel : Physical Review E, 53(5)(1996), 5382-5392.(12) W. A. M. Morgado and I. Oppenheim : Physical Review E, 55(2)(1997), 1940-1945.(13) T. Schwager and T. Pöschel : Physical Review E, 57(1)(1998), 650-654.(14) R. Ramírez, T. Pöschel, N. V. Brilliantov and T. Schwager : Physical Review E, 60(4)(1999), 4465-4472.(15) J. Calsamiglia, S. W. Kennedy, A. Chatterjee, A. Ruina and J. T. Jenkins : Journal of Applied Mechanics, 66(1)(1999), 146-152.(16) 荒岡邦明, 前野紀一:低温科学. 物理篇, 36(1979), 55-65.(17) 塚本浩司:物理教育, 52(2)(2004), 133-139.(18) 進藤聡彦:山梨大学教育人間科学部紀要, 11(2010), 224-232.(19) M. McCloskey, A. Washburn and L. Felch : Journal of Experimental Psychology : Learning, Memory, and Cognition, 9(4)(1983), 636-649.(20) J. Clement : American Journal of Physics, 50(1)(1982), 66-71.(21) 井田暁, 越桐國雄:大阪教育大学紀要第V部門教科教育, 59(1)(2010), 29-39.(22) 新田英雄:物理教育, 60(1)(2012), 17-22.(23) 村田朋恵, 黒澤実姫, 藤原優, 荒川絵梨, 柿崎健, 八木一正:日本科学教育学会研究会研究報告, 27(2)(2012), 55-56.(24) 仲野純章: submitted to 理科教育学研究.(25) 田中照久: 物理教育, 55(4)(2007), 303-305.(26) 徐丙鉄, 安部保海, 道上達広:近畿大学工学部紀要. 人文・社会科学篇, 45(2015), 1-22.(27) M. Z. Hashweh : European Journal of Science Education, 8(3)(1986), 229-249.(28) 小野寺淑行:千葉大学教育学部研究紀要第1部, 42(1994), 299-310.(29) 仲島惠美, 吉野巌:第48回日本教育心理学会総会発表論文集, (2006), 243.(30) 吉野巌, 小山道人:北海道教育大学紀要教育科学編, 57(2)(2007), 165-175.4.おわりに
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