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奈良県立奈良高等学校 仲野 純章図1 Marciの衝突実験;(1)d衝突前,(2)d衝突後衝突現象は,最も身近な物理現象の一つであり,古くから,研究対象としても多くの関心を集めてきた。特に,17世紀前後は衝突現象についての研究が盛んに行われた時期である。当初,運動する物体に衝突されたときに受ける大きな衝撃力への関心が高く,Galilei(1564-1642)も衝撃力を測定する実験を行い,衝突によって生じる力は静的な力よりも大きくなることなどをまとめている。ただし,Galileiの研究やそれ以前の研究では,衝撃力に注目し過ぎたため,衝突現象全体を捉えきれなかった(1)。そのような中,Marci(1595-1667)は,本格的な衝突実験を実施し,例えば,図1(1)のように静止している3個の同一物体a,b,cに,やはり同一物体dが衝突したとき,図1(2)のように物体dは静止し,失われた運動が物体cに移行することなどを報告している(2)。その後,Descartes(1596-1650)やHuygens(1629-1695)などにより,運動量の概念が打ち出され,運動量保存則が確立されていく。そして,1687年には,Newton(1643-1727)により,有名な「プリンキピア(Philosophiae Naturalis Principia Mathematica)」が著される(3)。その中には衝突現象への言及も見られ,物体同士の衝突に関して,反発係数というパラメータが導入されている。現在,我々が多様な衝突現象について理論的な議論ができるのは,彼らを始めとした多くの先人たちのこうした基礎的な研究の蓄積があるからこそである。-22-現代社会において,衝突現象は娯楽分野から産業分野まで,ありとあらゆる分野で見られる。産業分野の中では,ものづくりとも密接に関わり,生産段階は勿論のこと,更に上流の設計開発段階からも大きな関連性を持つ。生産段階の例としては,生産ライン内における製品(部品や半成品,完成品など)同士,あるいはそれらと治具や壁面などとの衝突をも考慮しながら,あるべき生産工程や搬送経路を検討するといった,生産技術的なシーンが想定される。また,製品を別の現場に輸送する際の梱包・輸送技術を検討するシーンでも,衝突現象がその主題の一つとなろう。一方,設計開発段階の例としては,衝突による製品自体の損傷や相手側の損傷を低減するためにどういった素材・構造にすべきかを検討するシーンが想定される。本稿では,ものづくりとも深く関わる衝突現象を題材に,理論と実際を比較しながら,特に,将来ものづくりに携わろうとする方々と共に,事実に則した思考・判断の重要性について考えたい。なお,衝突現象の中にも様々なパターンがあるが,本稿では,特に身近な「平面上での非弾性衝突」に焦点を絞る。1.はじめに―その理論と実際―平面上での非弾性衝突

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