1.はじめに 私が勤務する産業技術大学院大学(以下AIITと略す)のような専門職大学院は,学校教育法において『大学院のうち,学術の理論及び応用を教授研究し,高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするものは,専門職大学院とする。』と定められた高等教育機関である。高度専門職業人を育成するために特化した学位プログラムを実現するためにカリキュラムが設計されていることが一般の研究型大学院と大きく異なるところである。以下では,AIITにおける教育の実践から,高度専門職業人を育成する学習法としてコンピテンシーを獲得することを目的としたPBL(Project Based Learning)型学習が優れていることについて述べたい。2.業務遂行能力としてのコンピテンシー 専門職大学院は平成15年度に高度専門職業人を養成するために設立された制度である。法科大学院を始めとして,ビジネス,技術経営(MOT),会計,公共政策などの分野で開設されてきたが,技術分野の専門職大学院は少ないのが現状である。それは,従来の工学系大学院の多くがその役割を果たしてきたという事実があるからである。 従来の工学系大学院の多くは研究型の大学院である。そこでは,工学系研究者を育成するon the job trainingともいえる研究指導を中心として大学院教育が実施されてきた。学生は大学院教育の多くの時-1-間を研究に費やし,研究成果を関連する学協会などで公表することなどを通じて学生自身の研究能力が高まったことを示すことで学位が授与される。このような仕組みで,高度な技術系の専門業務を遂行できるかというと,否定的である。 その理由は,実社会で直面する技術課題は演習問題ではなく分野横断的であり,それぞれが技術的にも横断的な問題解決を必要とすることにある。これを解決できる高度専門職業人を育成するには,研究者を育成するのとは異なった教育システムを必要とする。 従来の研究者育成を目的とした大学院教育においては,最先端の研究がフロンティアにチャレンジするものであることから,研究対象を限定し,過去の先人の成果の上にたち研究成果を狭く深く追求することで新しい知見を獲得することができる人材育成を主たる目的としてきた。そして,その基礎としての体系的な知の獲得と研究の実践を通じて研究者が育成されてきたのである。 このような教育を経て産業界に進んだ人が直面するのが,体系的な知を獲得しているだけで解決できるほど単純ではない現実の課題である。従来の知識だけでは,その本質を理解することすら困難な複雑性を持っているのが現実の課題であり,それぞれが進路として選び入社した企業においてon the job trainingなどを通じて再教育されて初めて職業人として業務が遂行できるようになるのである。 そこで,高度専門職業人を養成することを当初から目的とした大学院教育が必要とされたのであり,そこでは,業務遂行能力を獲得できる教育プログラムが必須となる。この人のことば産業技術大学院大学川田 誠一このの人ことば高度専門職業人を育成するPBL教育について
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