力を入れている。将来,高度熟練技能者につながる技能五輪選手の育成の狙いは「高度な技能,強い精神力と豊かな創造力を持った技能者の育成」である。 技能五輪選手は,訓練生時代に「要員」として選抜され,卒業後は原則2年間の訓練に入り大会に2回チャレンジしている。選手は訓練のなかで各職種についての「高度な技能」と,常に新たな発想,改善,対策が取れるように,計画・実施・評価・対策のサイクルを回し「豊かな創造力」を身に付けていく。そして,問題に突き当たっても決して諦めず最後までやり抜くことで「強い精神力」を育てていく。以上の3点が選手育成の3本柱である(図5参照)。 「高度な技能」習得については,基礎技能の習得のため,まず基本訓練から入る。特に,この基礎技能の習得レベルが,選手の伸びの「鍵」となる。金属加工の職種である機械組立て,抜き型,精密機器組立て,旋盤,フライス盤などは,基礎訓練から「精度」「速度」「美観」の大切さを身に付けさせていく。レベルが上がることで,作業工程,作業時間,刃具の切れ味と仕上面,部品精度と製品の機能,安全性などが身に付き,職場で大切な「品質」「コスト」「納期」「安全」についての育成がなされるのである。 例えば,やすりで60×60mmの鋼角材を0.5mm削り平面にする作業を目標時間5分間以内で仕上る作業をすると,訓練開始時は30分以上もかかる。しかし,訓練を積み重ねレベルアップがなされていくと目標の5分以内に加工ができる技能が身に付いてくる。ここまで来ると,やすり掛けの正しい姿勢ができ,どんなやすりを持っても安定した平面精度が出-25-せるようになってくる。ここまでに約1年間は必要となる。このレベルになると体力,精神力も付いてくる。さらに訓練が進み,2年目の選手になると工具・刃具の改善・やすりの修正方法も習得し,加工工程(安全性・作業性),組付け方法,製品の機能出し方法も習得できる。最終的には部品精度の累積が組付け寸法に影響し,製品機能にも大きく影響するため,1000分の1mmの誤差へのこだわりを持たせることが大切である。 「豊かな創造性」については,選手になると出題課題に対し,作業性・効率化・計測技術を踏まえ,独自の工夫を加えた加工工程の立案ができるようになる。訓練前に動作分析を行い,作業台上の工具,刃具,計測器,材料の配置の検討・改善を行うことで,4Sもしっかりでき作業性の向上も図れる。 「強い精神力」を付けることは大変難しい。現在,訓練行事として実施していることは,自分の限界に挑戦する1回/年の65kmを歩く強歩訓練である。今までに経験のない長距離を歩き続けるなかで何度も諦めそうになるが,周りの人たちに支えられながら最後まで走破することで,達成感,自信を付けることができる。もう1つは,2回/年実施する社内競技会である。今回で65回を数えるもので,各選手が多くの見学者のなかで如何に平常心で作業をできるかが問われる。緊張感とプレッシャーのなかで,最後までやり抜くことが「強い精神力」の礎をつくっていると考える(図6参照)。 指導体制としては,1職種/2名の指導員で選手の育成に当たっており,指導員は技能五輪の選手経験者である。指導員は,選手を終え継続的に指導員になるため,選手時代の情熱・作業におけるスピード感を持ち,選手に技能を伝承している。また,職種リーダーとなる指導員は,職場経験を踏ませているために,人材育成の面からも幅の広い視野からの選手育成ができ,二人三脚で指導を行っている。 技能五輪選手育成の目標である「高い技能」「豊かな創造性」「強い精神力」を短期間に育ませるために,指導員として必要な能力は,指導力とそれを企業の訓練図5 技能五輪選手の育成項目5.3 指導体制と指導者に必要な能力
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