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職場での教育や能力開発が非常に上手であることに気づかされる。本来難しいと思うような内容の仕事も職域にしていたりして驚かされることもある。これには入職後の企業の能力開発を支える企業相互の情報共有や公的職業訓練機関との連携などのサポートシステムがあるとよい。その他,能力開発については米国のように国家を上げての技術開発なども期待したい。 上記の4つのポイントを上げてみると,一人ひとりのキャリアに応じたオーダーメイドで連続した職業訓練のしくみが必要なことが導き出される。さらに,それを支える本人を主体としたキャリアカウンセリングが職業訓練をさらに意味のあるものにする。支援する側はつい開発よりも適応にばかり目がいきがちである。本来,障害があるからこそ質の高い能力開発が提供されなければならない。 これまで障害のある人の就労に関わってきて,社会参加を阻む最大のバリアは「まなざし」であると感じることが多い。社会全体が抱く障害者のネガティブなイメージが障害のある人に対してネガティブな存在であることを強いている一面がある。保護や支援される存在という社会のまなざしが当事者の自立を後退させているといえる*6。 以前,障害者雇用枠で働いている方から「毎日が針のムシロ」と聞かされたことがある。氏は自分の障害のことよりもその視線が何よりつらいと話していた。過度な配慮は時として能力の発揮を阻害する。そして特別な扱いは時に本人にとっては非常につらいものになる。それが次第に自己効力感や自尊感情の低下につながれば労働の付加価値はおろか,その人の人生をも豊かでなくなってしまう。 社会全体が働く障害のある人一人ひとりを,自立した労働者として敬意を持って接するところから,本当の成熟は始まると感じている。技能と技術 2/2014-8-用語の解説*キャリア 「キャリア」とは,一般に「経歴」,「経験」,「発展」,さらには「関連した職務の連鎖」等と表現され,時間的持続性ないしは継続性を持った概念とされている。〔引用〕平成14年7月,厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書より。 ここではさらに職業生活を含む様々な活動や体験の積み重ね,又はそれらを主体的に意思決定しその人らしく生きることとして使っている。*1 ノーマライゼーション ノーマライゼーションとは,「障害者を特別視するのではなく,一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり,共に生きることこそノーマルであるという考え」で世界共通の障害者福祉の理念でもある。*2 ILOの障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約 障害者の適切な雇用と社会統合を確保することをめざす第159号条約の批准国は,「正式に認定された身体的または精神的障害の結果として,適当な職業に就き,それを継続し,それにおいて向上する見込みが相当に減少している者」のために適切な職業リハビリテーションの対策を講じ,雇用機会の増進に努めるものとされている。*3 障害者総合支援法 障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い,もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに,障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的としている。内容は障害者の自立に向けた総合的な支援について示されている。*4 合理的配慮 障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように,物事の本質を変えてしまったり,多大な負担を強いたりしない限りにおいて,配慮や調整を行うことである。日本政府は2013年12月4日に国連の障害者権利条約を批准し,国内法において法整備を進めている。*5 ジョブコーチ 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援においては,障害者,事業主及び当該障害者の家族に対して障害者の職場適応に関するきめ細かな支援を実施することにより,障害者の職場適応を図り,持って障害者の雇用の促進及び職業の安定に資することを目的とする。〔引用〕厚生労働省『ジョブコーチ支援制度について』より。 ここでは,上記の専門職以外に就労支援機関等で同様の支援業務を行う人達も含んで使っている。*6 社会のまなざし 社会が期待する役割や予想する行動があるという考え(役割理論)。その期待に応えた行動をとるとされている。5.まなざしの問題

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